三菱ふそう・キャンター 試乗レビュー









エンジンについては率直にいうと、エルフほどのトルク感は無く、またダイナほどのパワーもなく、相対的に言えば、少し物足りないように感じた。発進加速は問題なく、市街地でのストップアンドゴーでも不満はないが、高速道路の合流や、上り坂になっている幹線国道など、中高速域での伸び感は今一歩だ。エンジンの振動については、アイドリング中はシートの座面にかなり伝わって来るが、走行中はほとんど気にならない。ただ、エルフやダイナと比較して、巡航中のエンジンのノイズは、カラカラという高音が非常に耳につく。個人的にはそれほど嫌だと感じる部類の音質ではないのだが、仕事で使う人はなるべく静かな環境の方が、疲労度の低減という意味でも有効であるため、エルフやダイナのほうが騒音が少ないというのはある程度のアドバンテージになりうると思う。組み合わされるトランスミッションは、デュオニックという、三菱ふそうご自慢の、世界初の、商用車用デュアルクラッチ式トランスミッションだ。段数は6段で、通常は2速発進。湿式多板クラッチを用いており、クラッチ板の交換が不要という利点もあるようだ。これについては、評価が非常に難しく、悩ましい。基本的に、マニュアルよりも楽だし、何も考えずに運転しようとすれば出来てしまう、非常に優秀なトランスミッションだと思う。巡航中はダイレクト感があり、速度の調整もしやすく、車との一体感も感じ取れるという意味では、AMTの利点が非常にいきてくる。構造が煩雑になりがちなデュアルクラッチを商用車に採用したというのは、三菱ふそうの英断だと思うし、その試みは成功を収めていると思う。ただ、細かいところを指摘するのなら、まず最初に述べたように、エンジンのトルクが薄いにも関わらず、ドライブレンジの状態では、いくらアクセルを踏み込んでも、なかなかキックダウンしてくれない。Dレンジでフル加速するときも、エンジンの一番トルクが出る回転領域をすべて使い切る前にシフトアップしてしまい、乗用車のステップATのように、最速の加速力を得られることができない。いすゞのエンジンであれば、これでも不満はなさそうだが、キャンターのエンジンであれば、もっとエンジンの美味しいところを使っていくべきだし、Dレンジでフル加速ができないのであれば、最初からマニュアルを買ったほうが良いのではないかと感じてしまった。当然、加速力に不満が出た時は、マニュアルモードを用いるのだが、変速の際は操作にもたつきを感じる。リズムに慣れてしまえばそれほど問題はないのだが、デュアルクラッチと聞くと、どうしてもスパスパと決まるトランスミッションを想像してしまいがちなので、下り坂での安全性という意味においても、もう少し高速でシフトは決まって欲しい。そして、セレクトレバーの配置については、ストレートの位置に、パーキング、ニュートラル、リバースが来ており、ドライブレンジは真ん中のニュートラルの位置から左へずらすのだが、これは意外とめんどくさい。普通はストレートの位置にドライブレンジが来ると思うのだが、私の中の常識に反しているため、車に初めて乗ったときはドライブに入れたつもりが、リバースに入ってしまっており、少し焦った。ただ、半クラッチ時のジャダー振動はなく、シフトアップ時のトルク落ちもほとんどなく、シフトダウンもフリッピングが行われるため、全体的なマナーは良い。細かいことは今後どんどんと改善されていくことだろう。基本的な道筋は間違っていないと思う。
ハンドリングについては、今まで乗った3台の中では、最も優秀だと感じた。当然、トラックなので、シャシーはすぐにねじれてしまうのだが、エルフやダイナと比較しても、特に後輪の接地感が良かった。キャビンとシャシーの一体感は、これまで乗った2トントラックの中では最も強く、ハンドルを強く曲げても、それほど腰砕けになる印象もない。過酷な環境で、長期間使用されることが考えられたトラックにおいて、これほどまでにシャシーや、サスペンションの剛性を高めたというのは賞賛に値すると思うと同時に、今度は耐久性が気になって来てしまうところだ。
高速域でのスタビリティー性能については、ダイナやエルフと比較して、圧倒的に良いと感じた。以前の動画で申し上げた通り、2トントラックというのは今や、非常に性能が向上した軽トラックと比較しても、高速域での安定感が悪いと感じていた。キャンターに関しても、当然乗用車とは比べ物にならないし、やはり最新型のハイゼットトラックなどと比較しても、悪いと感じてしまったのだが、エルフやダイナでは怖くて乗れなかった、高速道路の追越車線に乗ることはできた。路面に凹凸があると、前輪がポンポンと跳ねることはあるのだが、それでもかろうじて、追越車線のペースで走行することはできる。ただ、前述した通り、エンジンのパワー感が今一歩なので、全体としてみれば、そこまで高速巡航が得意というわけではない。
乗り心地についても、やはり今まで乗った3台の中では圧倒的だ。風切り音やエンジン音、ロードノイズなど、音関係については最もうるさいと感じたが、路面からの突き上げについては、サスペンションがそれなりに吸収し、シートの座面も柔らかいため、段差や道路のつなぎ目などを乗り越えた時の苦痛さは、エルフの3分の1、ダイナの半分くらいの印象だ。もちろん、乗用車や、最新型の軽トラックと比べると、あたりはきつく、ある程度以上の上下運動があると、背骨に響くような、ズシンとした衝撃は感じるものの、やはり長時間乗った時の疲労度は段違いだ。度重なる寒波の襲来によって、道路が荒れにあれまくっている、東北地方の幹線道路を連続して走るのであれば、とりあえずキャンターが一番だ。というよりも、この状況で、エルフやダイナで宅配に来る業者さんは、本当に気の毒でならない。路面に凹凸があった時の、前後のギクシャク感も、あることはあるのだが、エルフやダイナほど苦痛なものではなかった。やはりシャシーの剛性が高いということは偉大である。

スズキのボディーや足回りに、ホンダのエンジンを積んだ軽自動車があれば良いのにな。私は常々そう思っているのだが、2トントラックに関しては、キャンターのシャシーや足回りに、エルフのエンジンが積んであれば、一番良いのにと感じる。乗り心地やドライバビリティ、そして車との一体感という意味では、キャンターがダントツで1位だが、いすゞのエンジンの、もりもりと湧き上がるトルクや、扱いやすい出力特性、巡航時の静粛性、そして高いエネルギー消費効率はなかなか捨てがたいところだ。要は、加速性能と燃費を取るか、それとも操縦安定性と乗り心地を取るか、どちらがよりその人、あるいはその会社にとって重要なのかということが選ぶ際のポイントとなりそうだ。私はどちらを取るのかと言われると、もうこのチャンネルの動画をよく見てくださっている方なら、察しはつくと思うが、圧倒的に、迷うことなく、キャンターを選ぶ。確かにエンジンは相対的には心許ないが、煽られるほど遅いというわけではないし、デュオニックではなく、MTを選択すれば、出力が小さいことが、むしろ操る楽しさを生むスパイスとなりそうだし、よりエンジンの美味しいところを使って、駆け抜けていこうという気概も生まれて来る。また、決してデュオニックがダメだというわけではなく、運転中は余計な操作にとらわれず、なるべく楽をしたいという人にはうってつけであると言えるくらいの完成度ではある。

走行距離581.6km  給油量54L 今回燃費;10.8km/L(軽油)


詳しい解説はこちらをご覧ください!
https://www.youtube.com/watch?v=wEW0hQyQKkU

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