日産・エクストレイル 試乗レビュー
エンジンはとても日産らしい、すっきりとしていて扱いやすい、フラットなトルク特性を持つエンジンだ。アクセル操作に対するレスポンスも良く、かといって鋭すぎて気を遣うというわけでもなく、ファミリーカーとしては最適な、正しい設計のエンジンだ。近年、このクラスの車には、ハイブリッドやダウンサイジングターボ、あるいはディーゼルのモデルが多くなってきており、エクストレイルでもハイブリッドのグレードはあるのだが、自然吸気エンジンの扱いやすさと、素直なフィーリングを味わうと、ハイブリッドではなく、あえてガソリンエンジンモデルを選ぶという人がいても不思議では無い。ディーゼルのCX-5のような、ハッとするようなトルク感もなければ、アウトランダーPHEVのような爽快感も無いが、こういう従順で素直で、保守的なパワートレインは残しておいても良いと感じる。車両重量が重いため、上り坂や峠道では息切れしてしまうが、街中や幹線国道ではそれほど問題はないし、高速道路でもまだ余裕はある。エンジン音についても音は非常に小さく、巡行レベルであればほとんど音は聞こえず、アイドリングストップしても気づかないほどだ。アクセルを全開にしても、メカニカルノイズはどこか遠くから聞こえてくるなという印象で、エンジンとキャビンの間に、厚い壁が一枚入り込んでいるかのようだ。ただし、ロードノイズは比較的多めに響いてくる。アイドリングストップのマナーもほとんど文句がないレベルで、停止時は感覚を研ぎ澄ましていないとわからないレベルの振動しかなく、再始動時も嫌なキュルキュル音などもほぼ聞こえない。再始動直後にアクセルを踏んでも、タイムラグは発生せずギクシャク感も皆無だ。今まで乗った車の中で、最もアイドリングストップのマナーが良いと感じたのは、プジョーの1.6リッターディーゼルを搭載した308であったが、日産の2リッターガソリンもそれに匹敵するくらいのマナーの良さを誇っている。
トランスミッションであるCVTは、本当に出来が良いと感じた。個人的には、今まで乗ったCVTの中では、スバルのチェーン式リニアトロニックや、電気自動車、燃料電池車、ノートe-POWERなどの電動車両を除けば、最も完成度が高いと感じる。まず、アクセル操作に対するレスポンスが非常に良く、かつてのCVTの車のような、ラバーバンドフィーリングはあまり感じなくなっていた。それでいて、シームレスで息継ぎがなく、電気自動車のようにスーッとスピードに乗せていくような感覚は、プレミアムな雰囲気さえ漂わせている。アクセルを全開にすれば、擬似的に変速がついているかのような制御が行われるが、それはエンジン音によって耳を通じてスポーティーさを乗員に感じさせる一方で、不快な段つき感や、前後のギクシャク感は発生せず、まさにいいとこ取りだ。このようなCVTの制御はスバルの専売特許だとばかり思っていたのだが、他社からも悪くないと思えるCVTが、最近はよく出てきている。トランスミッションについては各所で侃侃諤諤の議論が交わされているが、CVTがよくなったかと思えばトルコンATもまた進歩するなど、どれを支持すれば良いのかわからないまま、結局自分はマニュアルの車に乗っている。ただ一つ言えるのは、近年デュアルクラッチなどの乾式シーケンシャルは、あまりシェアを伸ばしていないようではある。
乗った瞬間に思ったことは、実際の全長や全幅よりも、車が大きく感じるということだった。着座位置はSUVらしく高めなのだが、前側の見切りはあまり良くなく、死角が多い。ピラーの位置も良くなく、交差点では右折の際、いちいち身を乗り出さないと歩行者の有無が確認できない。後方の視界はさらに悪く、特に雨が降っていると後ろを車が走ってきても気づきにくい。バックカメラがあることが前提といった設計だとは思うが、車線変更は非常にやりづらいので長距離走っていると気疲れしてしまう。
ハンドリングについては、近年スポーティーなSUVが増えている中にあっては、おおらかで大味な印象を受けた。このチャンネルで紹介した日産の車の中で言うと、フーガと初代ブルーバードシルフィ以外はすべてそういう印象なのだが、ハンドルが非常に軽い。女性やファミリーユースにはこれが受けるのかもしれないが、スピードレンジが高くなってもずっと軽いままではむしろ疲れてしまう。ワインディングに持ち込むと、ハンドルを切り返した時にリアが遅れてついてきてしまう印象があり、また切り始めも鋭さがない。ハンドルからは前輪のインフォメーションが全く伝わって来ず、気付いた時にはアンダーステアになっている場合があり、ハンドルを切るのが怖いと感じることも多い。カーブの途中で路面があれている場合などは、車輪の接地変化が激しく、常にハンドルを微調整しなければならないし、車の限界も知り得ない。ボディーはそれなりにしっかりしていると感じたが、サスペンションのストローク感はあまりなく、結果としてタイヤを地面に押し付ける役割を果たしていない。また、ステアリングの剛性感にもかけており、ハンドルセンターも甘い上に、毎回どのくらいハンドルを切れば良いのかがわからず、でたとこ勝負になってしまう。
スタビリティーについても、やはりタイヤの接地性が甘く、高速になればなるほどハンドルがフラフラし、ボディーも揺すられる。路面のつなぎ目や、凹凸のある箇所では車が飛ばされてしまうのではないかと心配になってしまうほど、なんだか車輪が浮き足立っているような感覚になる。アウトバーンの速度域で、矢のようにまっすぐ走れとまでは流石に言わないが、エクストレイルは去年、東北地方で最も売れたSUVであると、盛んにテレビでコマーシャルを打っていた。だとしたら、それこそ東北自動車道のように、速度域が高く、路面が荒れまくっている高速道路でも、安定して走れるようにはして欲しい。
事前に様々なインプレッションやレビューをみたところ、プロの自動車評論家は大体の人が、エクストレイルの乗り心地を硬いと表現していた。一方で、一般の人が書いたレビューの中にはやわらかめだという評価もそれなりにあり、これには私も首を傾げた。例えばドイツの車だと、想定している速度域が高いため、ワインディングや高速道路でインプレッションするプロは、乗り心地が良いと表現した車でも、一般の人にとっては硬いと思われてしまうことがよくあるのだが、その逆はあまり見たことがない。どういうことだろうと思いつつこの車に乗ってみると、なるほど謎はすぐ解けた。走り出してすぐ、市街地を低速で走行しているときは、最低地上高が高く、サスペンションのストローク量が多いこともあってか、いかにもSUVらしい、おおらかでゆったりとした乗り心地を味わうことができた。ところが郊外の幹線国道に持って行くと、道路のつなぎ目や目地段差ではバタンとお尻を突き上げられ、さらに高速道路に入ると背骨を突き刺すように衝撃がつたわるほどガツンとつきあがった。スピードが低い時と高い時とで乗り心地には雲泥の差があり、それが評価の分かれ目になっているのだと思う。もしかしたらこれは速度域の低い日本独自のセッティングで、アメリカやヨーロッパ、中国仕様ではよりハイスピード向けの設定になっているのかもしれないが、長時間高速道路を走り続けるのは正直辛そうだ。シートについては全体的にストローク感が足りない。座面は前側が硬いためか、内側のももが少しだけしびれてしまったし、背中は乗っているうちに痛くなってきてしまった。もっと表皮に柔軟性をもたせ、クッション材はストロークを持たせたほうが快適だと思う。本革の表面は触り心地が良いし、見た目もゴージャスだが、シートの良し悪しはまずは機能性で勝負して欲しい。
パワートレインやドライブトレインはべた褒めした一方で、足回りやボディなどは少し厳しい評価となってしまった。ただ、冷静に考えると、全長4.7メートルに迫る日本では大きめと言える部類のSUVを本体価格220万円程度から手に入れることができるというのはコストパフォーマンスが高いと言える。全体的に静的な質感を重視し、かっこいいエクステリアと、とりあえず見た目と感触の良いインテリアを作り上げることには成功している。車を売ることを考えた場合、見た目と価格が重要な位置を占めているということもまた事実なわけで、乗り心地やハンドリングについては、気にしない人は全く気にしないし、こういう車は存在してもてもいいとは思う。
走行距離505.4km 給油量42L 今回燃費12.0km/L
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