トヨタ・クラウンアスリート 試乗レビュー
エンジンは2500ccの自然吸気というスペックから感じる以上にトルクがあるように思えた。低回転からもりもりと力がみなぎってきて、高回転まで比較的フラットな牽引力を発揮する。日産のV6エンジンほどドラマチックで、エンスー好みというわけではないが、実用重視で非常に扱いやすい。ただ、アクセル操作に対するレスポンスは悪く、アクセルを踏み込んでも一瞬戸惑うような動きを見せてから加速していく。エコモードでも、スポーツモードでもそのような感じだったので、アクセルのツキのよさをもっと極めていけば、スポーティーでかつ扱いやすく、粋なパワートレインになるだろうと思う。以前乗った日産のフーガでは、3700ccのV6エンジンだったのに対して、今回のクラウンは2500ccなので、単純な比較はできないが、私の今までの経験に照らし合わせると、スポーティーなV型エンジンを作らせると、少し日産の方が優位に立てている気がする。ただ、私が乗ったことのあるトヨタの3500ccV6エンジンは、改良される前の、280馬力のものであったため、301馬力に向上した現在のトヨタ製3500ccV6のフィーリングについてはまだ確かめられていない。エンジン音についてはよく遮断されている。巡航中であればメカニカルノイズはほとんど聞こえないし、強い加速を行うと、アメリカ車のような野太い音が聞こえてくる。よくよく耳を凝らしていると、加速中はV6らしい、キーーンという高音がしているが、全体的に言って遮音はしっかりとされている印象だ。悪い成績ではないが、音に関しても、やはり日産のほうがうまく作り込んでいるように感じる。ただ、全体的な車内の音量についてはトヨタが一歩優っているため、公用車として導入するのなら、結局トヨタということになってしまう気もする。ロードノイズについては、舗装の状態によっては、ゴーーーというエコタイヤが路面を弾く低周波音が、遠くの方から聞こえてくる印象がある。おそらく、ルマンやデシベルなどのコンフォートタイヤを装着すれば、全く気にならないというレベルだろう。風切り音についても優秀で、日本の法定速度を守って走行している分には、ほとんど気にならず、レベルとしてはかなり高い位置にあると思う。トヨタの高級車らしく、遮音については頑張っている印象があるため、やはりできればコンフォート系のタイヤを装着したいところ。
トランスミッションである6速ATについては、多少時代に取り残されている感覚があった。変速は非常にスムーズだが、シフトレバーを右に倒し、マニュアルモードを使用した際の変速スピードは衝撃的に遅く、下り坂でエンジンブレーキを使用したいときなどに、もたついてフットブレーキを強く踏んでしまうということもよくあった。同じトヨタでも、ハイエースの6速ATのほうが、シフトダウンのスピードが早いと感じてしまうほどだ。ワインディングを走っていても、決まって欲しい時にシフトがきまらず、もどかしい思いをしてしまう。また、停車状態からの発進時のマナーがよくなく、アクセルを踏み込むと突然大きくトルクを伝えてしまい、細かい制御が難しいと感じた。ただ、当然ながらこの点については次期モデルの10速ATや、マルチステージハイブリッドでは改善されるはずなので、現在は相対的に古くなってしまっていて、仕方ない点であると言えるだろう。
ハンドリングは基本的には素直で、慣れると素早いコーナリングも可能だが、クラウン特有のリズムを掴まなければならない。特にもノーマルや、エコモードの状態であれば、ハンドルを素早く曲げると少し遅れて車が反応する。というと、やれドイツの車はもっとソリッドに反応するだとか、スバルやマツダの車と比較してどうのこうのと槍玉にあげたくなってしまう人もいるでしょうが、クラウンというブランドの性格を考えれば、これでいいのかもしれない、いや、むしろこれが良いのかもしれないと感じた。クラウンは、ほとんど日本専用のモデルであって、ドイツ勢とバトルしなければならないレクサスとはまた違った価値観を提供しなければならない車である。日本人は長年、特に高級車にはおおらかで雄大なドライブフィールや乗り心地を要求してきたところがあり、とくに中高年ではあまりにもソリッドなハンドリングを嫌う人もいまだに多い。ここまで述べてきた通り、アクセルレスポンスも一歩遅れており、トランスミッションの反応も一呼吸あり、ハンドル操作もワンテンポ遅れるなど、最近のセダンとしてはおおらかな印象を抱かないわけでもないが、おそらくクラウンを所有する人の大半はそれこそがクラウンの味であり、独特の空気感を演出する調味料なのであると思っていることでしょう。一度旋回がスタートすれば、多少のロールを伴いつつも、スリーボックスによるボディーの剛性感を漂わせながら、非常にすっきりと、きれいにバランス良く曲がっていく。タイムラグがあるにも関わらず、ハンドルセンターは曖昧ではなく、重さも適切で、ステアリングにも剛性感がある。ただ、このアスリートというグレードに関しては、対象年齢層を押し下げたスポーティな車であるという位置付けであるはずだということも、私の頭をよぎったことは事実。マークXやレクサスのセダンとの住み分けに迷いが生じたのかもしれないと邪推してしまった。次期モデルでは、そういった迷いが払拭され、既存顧客へのロイヤリティと、新規顧客への訴求力を両立した、トヨタらしいバランスの良さを期待する
高速域でのスタビリティ性能は高いと言ってもいい。だが、ドイツのライバルや、日産のフーガほどの安心感はなく、あくまで国内専用であるということは意識させられる。高速道路で比較的大きな凹凸があると接地感が変化することもあるが、基本的には日本の高速道路の追越車線を優雅に走ることができる性能はある。ただ、2500ccのこのエンジンが丁度良いと思ってしまったため、もしかしたら3500ccのモデルや、ハイブリッドなど、より出力の大きいグレードになると、シャシー性能の不足を感じてしまうかもしれない。
乗り心地については、すこし期待値を上げすぎていたようだ。砂利道のような細かい揺れが多くなる場所ではサスペンションが非常によく揺れを吸収してくれるが、高速になればなるほど、大きな段差になればなるほど相対的にゴツンとつき上がる印象があった。街中を流す程度の速度であればとても快適なため、そのような速度域にあわせたチューニングなのかもしれない。また、乗り心地至上主義は、ロイヤルに任せているのだろう。
正直にいうと、今回乗車した車に関して言えば、昨年乗ったカムリのほうが乗り心地が良く、スペースも広い上に、内外装も若者が乗っていても不自然な感じはせず、私ならそちらを買ってしまうかもしれないと思った。クラウンのモデルチェンジ寸前で、一時的な下克上が起きてしまっているのだろう。カムリの感動的な出来の良さを考えれば、同様にTNGAを採用し、剛性アップやドライブトレインの刷新が図られるであろう新型クラウンは一体どれだけ素晴らしいものになっているのだろうかと、大きな期待を寄せてしまう。日本のためだけに設計された、ほとんど唯一と言ってもいいこのセダンは、レベルが高いとか低いとかではない、独特の雰囲気を帯びているものであった。日本の乗用車の中では、もっとも長寿であるこのクラウンは、もはやブランドであると言っても良いでしょう。それだけに、既存顧客へのロイヤリティを重視すべきか、思い切って若返りを図るのか、悩ましいところではあるとは思いますが、ぜひとも最適解を見つけ出し、日本の高級車のスタンダードとして、これからも君臨し続けて欲しい。
今回燃費;11km/L 640.8km 58L
詳しい解説はこちらをご覧ください!
https://www.youtube.com/watch?v=EixYgVJk8tQ&t=394s
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