フォルクスワーゲン・ポロ 試乗レビュー










例えば、なんの前知識もなく、新しくなったポロを見せられたのなら、ああ、ゴルフがモデルチェンジしたのだなと思うことだろう。立派になった体格からそう感じるということももちろんあるのだが、どっしりとしていて低重心を感じさせるデザインや、水平基調で比較的おおらかな全体像を見ると、以前のポロはどこかこぢんまりとしており、キリッとした印象だったことを思い出すにつけ、ポロも随分と成長したなと感じさせられる。これよりも小さい車が欲しいのであれば、フォルクスワーゲンの中では、もうアップしか選択肢がないらしい。さて、前編でも申し上げた通り、車を乗り降りする際は必ず体のどこかを痛めつけなければならず、さらに、ほかの部分ではまったくそうならないのに、前のドアの上の部分を触ると、毎回静電気が発生するという原因不明の現象にも悩まされ、第一印象は芳しくない状態での試乗スタートとなった新型ポロだが、一度乗り込んでしまえば、視界の良さと、シートの良さによって、ちょっとだけ気分が晴れた。ボンネットは短く、従って車の前側はよく見えるし、ピラーもよく考えられてつけてあるのだろう。交差点での歩行者の確認がしやすい。着座位置は標準的か、少し高めかもしれない。シートの座面の硬さはちょうどよく、左右のホールド感も極めて良好で、乗り降りの際に太ももを痛めつけるという代償も安いものだと感じる。1リッター3気筒のダウンサイジングターボエンジンは今まで乗った3気筒の中で最も出来が良いと感じた。昨年アウディA1に乗った時と同じフィーリングで、出だしの加速にとても優れている。また、エンジン振動も極めて小さく、走行中であればほとんどわからないし、騒音も3気筒にしては小さい上に、音の角も丸められていると思う。しかしながら、それはあくまで3気筒エンジンとしてはということであって、先代の4気筒のフィーリングにはどうしてもかなわない。例えば低速域での加速感は良いのだが、3速以降ではかなりモッタリとした加速になってしまうし、高回転まで回した時の音は、結局軽自動車だ。ロシアで一番暖かい場所が、フィリピンで一番寒い場所よりも寒いように、フィーリングといった面で3気筒は絶対に4気筒にかなうはずがない。さらに組み合わされるトランスミッションである7速のデュアルクラッチについても、ちょっと首を傾げたくなる瞬間があった。このチャンネルで、フォルクスワーゲンの車に乗った時は毎回そう言っているのだが、ワーゲンにデュアルクラッチを載せたら本当に素晴らしいと感じることが多かった。電光石火の変速と、ギアが変わった時にはカチッとしたフィーリングがあるにもかかわらず、ショックは極めて小さい。ただ、どういうわけか今回の新型ポロでは、今まで乗ったワーゲンほどの完成度を見せてはくれなかった。ギアチェンジの際のトルク抜けの時間が長く、また発進時や変速時の半クラッチの時間が比較的長い。パドルシフトを操作するとタコメーターの針はモタっと移動し、先代のポロのようにカチっと決めてしまう感覚が薄れてしまっている。アイドリングストップから復帰した後もクラッチがなかなかつながらず、後ろの車に申し訳ない思気持ちになってしまったし、渋滞の時は速度調整がしづらく、右足の疲労が早い。パワートレインやドライブトレインは、全体的にいえば、ガチガチだった先代から比較するとゆったりまったりとした印象が強く、前のポロから乗り換えた人は少し驚いてしまうかもしれない。これがシトロエンやルノー、あるいはフィアットあたりなら文句をつけないところなのだが、自分の中でフォルクスワーゲンとは質実剛健でガチガチの車を製作しているというイメージがあるので、はっきり言って仕舞えばがっかりしてしまった。アウディの時も思ったが、フォルクスワーゲングループはまだこの3気筒エンジンとデュアルクラッチトランスミッションのマッチングにおいて、うまく合わせ込むことができていないのかもしれないし、時代はすでにトルクコンバータ式多段ATへ文字通りシフトしているので、そろそろワーゲンも腹を決める時なのかもしれない。それに結局のところ、3気筒や2気筒は、パタパタひらひらと動き回るラテン系大衆車にはマッチしているものの、骨太でマッチョでガッチリしたドイツ車や、利便性と親しみやすさを追求した国産車にはどうしても世界観が合わないところがある。ただ、そうは言っても二酸化炭素排出量を削減していかなければならない中で、今後はエンジンのダウンサイズ化、そしてダウンシリンダー化が一層進んでいくだろうから、もはやコンパクトカーに4気筒なんて贅沢だと考えなければならない時代になりつつあるのだろう。何度も言うが、3気筒としては個人的には本当に今までで最高の出来だと感じていて、フォルクスワーゲンとしては今の時代に即した最大公約数を提示したというところなのだろう。時代の流れに寂寥を感じつつも、車をワインディングに持ち込むとやっぱりそこはフォルクスワーゲン。ハンドルを切れば切るほど楽しくて仕方がない。カーブの入り口から車は徐々に、自然にロールを始め、フロントタイヤに負荷がかかるととんでもないバイト感をステアリングに伝えてきてくれる。路面の状況も、タイヤの限界も手に取るようにわかるのでまるで運転が上手くなったかのような気分だ。ただ、ちょっとだけ気になったのは、運転席の後ろあたりでわずかにシャシーがよじれる瞬間があるということだ。先代のポロではそんなことはなかったので、製品個体差なのか、あるいは大きくなったことの弊害なのか、いずれコーナー途中で怖い思いをするというほど深刻ではないものの、それさえなければもう少しハンドリングは気持ちよくなっていたと思う。ステアリングの剛性自体は素晴らしいの一言なのだが、ここのところフォルクスワーゲンはハンドルが軽すぎる。乗った瞬間は、日産のノートかリーフに乗っているのではないかと思ってしまうくらいで、それによって感覚的なかっちり感というか、高級感というか、フォルクスワーゲンらしいかっちりとした演出が失われてしまっている気がするし、街中ではこれでも良いのかもしれないが、ワインディングではむしろ気疲れしてしまう。高速域でのスタビリティに関しては、先代からそれほど進化は感じなかったが、もともとBセグメントとしてはトップクラスに優秀だったので、エンジン性能を考えればこれ以上向上させる理由もないだろう。高速になればなるほど車体が地面に押し付けられ、低速域では軽すぎたハンドルも徐々にすわってくるので安心感が高い。これはアウトバーンで鍛え上げたドイツの車ならではといってもいいだろう。乗り心地については先代よりもハーシュネスの突き上げが柔らかめだと感じた。トレッドが拡大したことで、スタビリティと乗り心地を両立することができたのだろう。この個体では大きな突き上げがあった後で、リアまわりからブルんと振動が伝わってくることがあったが、乗車時でまだ走行距離が2000キロに達していなかったため、もうすこし走りこめば消えそうな感じもする。アイドリングストップから復帰するときは、割と勇ましい音が響き渡り、車の前半分がブルンと震える。こういったところは国産車の方が得意そうだ。ただ、ロードノイズや風の音に関しては国産車並みというか、国産車の平均よりは確実に静かで、外国車イコールロードノイズがうるさいという私のイメージからするとなかなか大したものだと思ってしまう。ドイツ車と言えば先進装備、いわゆるハイテクのイメージを持っている人も多いだろう。しかし今回乗ったこの車、音声入力は使い物にならないし、パンクしたわけでもないのに空気圧警告が出てしまい、挙げ句の果てにワインディングを走っていると、コーナー出口の看板などに反応して緊急ブレーキをかけることが何度もあった。こんなことはスバルのアイサイトはもとより、トヨタのセーフティセンスや、ダイハツのスマートアシストですら起こったことはない。これには本当にガッカリしたし、個人的にはリコールに匹敵するほどの不具合だと思う。ワインディングを走るのなら自動ブレーキは切れという事なのだろうか。そんなバカな話があるか。
結論から言うと、なかなかよくできた車だと思った。いやいや、今までの解説を聞いていると、そんなにいい印象は持っていないじゃないかと突っ込まれそうだし、もし私がBセグメントの車を買うのであれば、オートマチックならシトロエンのC3MTならスイフトで決まりといったところだ。これはひとえに、先代のポロの出来があまりにもよく、私の中で期待値が上がりすぎていたからなのかもしれない。その上に、周囲のレベルが上昇してしまったため、もはや出来不出来ではなく、最終的な車の味付けの部分で車を選ばなければならなくなっていると言う状況が、すでにコンパクトなBセグメントにも波及してしまっているためでもあり、そう考えるとどうしてもパワートレインのフィーリングが、ドイツ車の雰囲気に合っていないと感じてしまう。ここ数年、いろいろあったフォルクスワーゲンは、それでもプロダクトはあいかわらず優秀で、かつ楽しく、質実剛健なイメージを失わなかった点については評価できるし、私もウォルフスブルクの技術者たちに対して尊敬の念を持ち続けている。今回一番のネガだった、3気筒のフィーリングについて、これをドイツ車的解釈でラテンの車とは違う、マッチョな世界観にどうにか落とし込むことがいつの日かできることだろう。

389.1km 33.8L 11.5km/L(ワインディング主体 渋滞多い エアコンON)

詳しい解説はこちらをご覧ください!
https://www.youtube.com/watch?v=-Gvof-myXlk

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