スズキ・ジムニーシエラ 試乗レビュー









いつも通り、ワインディングロードのようなところを走らせている映像を流していますが、本来的に、ジムニーシエラ、あるいはジムニーの価値は、こういった場所で決まるものではないはずです。縦置きエンジンに、ラダーフレーム、優秀なトラクションコントロールシステムなどによって、トヨタのランドクルーザーや、レンジローバー、あるいはメルセデスのGクラスなどと同等、あるいは、条件によってはそれ以上の悪路走破性があり、しかも価格はそれらの車の数分の一というのがこの車の存在価値です。私なんかは、舗装もされていないような山道を通らなければならないような場所に住んでいるわけでもなければ、そういう場所に行くレジャー趣味を持っているわけでもなく、仕事で悪路を走るというわけでもないので、本質的なことをいえば、この車を買う必要なんかないですし、単純に運転が楽しい車が欲しいのであれば、スズキの中ではスイフトが一番ということになるでしょう。しかしながら、それでも私は、この車に乗ってみて、欲しくてたまらなくなってしまいました。まずは、なんといってもデザインがたまりません。メルセデスのGクラスか、昔のレンジローバー、あるいはウィリスジープなんかを彷彿とさせる、軍用車の弟分のようなデザインは、当然歴代のジムニーとも整合性がとれています。車の外側は四角く、ライトなどの部品は徹底して丸いというデザインは、カッコ良くもあり、可愛らしくもあり、男性が乗るのも悪くないのですが、個人的には女性が乗るのにとても似合っていると感じます。東京都内では、ポルシェやランボルギーニあたりだともはや珍しくない存在ですし、最近ではテスラが走っていても、歩道の人は見向きもしないのですが、この車で環状七号線の世田谷あたりを走行しているときは大人はチラリとこちらを一瞥し、子供は指をさして喜び、名だたる欧米のスーパーカーたちに一矢報いた気分になってしまいました。発売されたばかりでまだ台数が少ないというのも理由の一つでしょうが、多くの人がこの車に注目し、デザインを支持しているということは確かなようです。軽のジムニーでもシエラでもボディは同じなので、コストパフォーマンスを考えれば断然軽の方がよいのですが、やはりデザインでこの車を選ぶのであればずんぐりとしていてかわいらしいシエラにした方が良いと思います。また、そう思う理由はもう一つあって、それは当然ながらエンジンの違いによるものです。軽自動車はそのレギュレーションに収めなければ成立しないため、軽のジムニーは3気筒660ccエンジンにターボをつけて送り出されています。一方でシエラは国内のスズキ車唯一の4気筒1500ccエンジンで、それも自然吸気です。他のレビューなどを見ていると、軽のジムニーは高速道路でギンギンうるさいのに対し、今回乗ったオートマチックのシエラでは、100キロ巡航でタコメーターは3000回転を指差し、通常のコンパクトカーと同等といったところでしょうか。軽でも64馬力はありますから、出力が不足だということはなさそうですし、アルトワークスのエンジンと同じように、ターボの嫌な感じも相当に消されているんだとは思いますが、やはり高速巡行の時の余裕と、回した時の気持ちよさは、大排気量の自然吸気でこそ味わえるものだと思います。それではこの車、速いのかと言われると、まあ街中を普通に流したり、峠道をおとなしく走るのには不足はないのですが、特段速いわけではありません。エンジン特性も、不整地で扱いやすくするためか、中低速域のトルク重視で、自然吸気にしては回してそこまで気持ちが良いというわけでもないですし、なにより今時4速ATというのは乗り心地、ドライバビリティ、そしていざという時の加速性能に不安が生じます。ただこれにも当然理由があって、車の修理のしやすさや耐久性、軽量化などで有利だったため、採用されたものと思われます。変速ショックが大きく、ダイレクト感もないですが、ヘビーデューティー系のオフローダーであれば、こんなもんだろうと私は思います。運転できる人はマニュアルを買った方が良いとは思いますが、この車の場合は特段無理せずATでも良いかなという気はします。着座位置は当然高く、見晴らしは良いです。一緒に乗った友人が、隣に並んだマツダのデミオを見て、まるでこの車の屋根にシートがついているようだと驚いていました。見晴らしは当然によいのですが、視界については上方向があまり良くなく、信号を見るために身をかがめなければならないことがよくありました。運転席のシートの座面のすぐ後ろにリアタイヤがついており、タイヤのポジショニングとしてはFRクーペのようなイメージです。したがって、後方の視界はすこぶる良いのですが、シエラの場合、出っ張ったフェンダーがどこまでせり出しているのかがわからず、最初のうちは車庫入れや切り返しに、ちょっとドキドキしてしまいました。乗り心地については、この手の車にしては悪くないというか、かなり良好だと思いますが、一般的なコンパクトカー、あるいは今時のシティーユースでモノコックボディのSUVと比べてしまうと、ちょっとかわいそうかなと思います。路面が荒れている場所では背骨が圧迫されるような、揺れの大きさを感じます。ただ、タイヤのエアボリュームに助けられてか、揺れの初期の動きはふわりとしているほか、シャシーとボディーの間でブルブル震えるようなことは起こりません。運転していると比較的すぐお尻が痛くなってしまったので、シートの座面はもう少し改良の余地があるのかなとは思いますが、これも耐久性などを考えた上で仕方ないことなのかなどと考えてしまうと、この手の車のレビューは本当に難しいなと思ってしまいます。ハンドリングについても、やはり普通のコンパクトカーと比べるのはかわいそうな話で、街乗りレベルでもゆったりもったりとしており、ハンドル操作に対して車体の動きがワンテンポ遅れてきます。最初は正直この動き方に面食らってしまったのですが、案外すぐ慣れてしまうものだなとも思いました。映像のように、ワインディングを速いテンポで走るのは正直疲れてしまうのですが、ゆったりと流してく分には特に問題はありません。ちょっと怖いのは首都高のように狭い高速道路を走る際で、コーナーを予測してステアリング操作を早めにやってあげないと車が右へ左へフラフラしてしまいます。高速カーブの途中で路面に凹凸があると車は挙動を変えやすいので、最近の車に慣れてしまっている人は特に注意が必要かと思われます。高速域でのスタビリティも、最近の車と比べるとやはり不安が多いので、あまり追越車線に出てシャカリキにはならず、高速道路ではゆったりと、先を読みながら走って行くのが良いかと思われます。ボクシーなデザインのためか、雨よけ以外の部分からも風の音は大きく侵入してきますが、ロードノイズは普通レベルです。メカニカルノイズはエンジン音は比較的静かな一方で、トランスミッションからの騒音が気になりました。

以上のように、高速道路をかっ飛ばしたり、峠道を走るような車ではないですし、ラクシュリーな雰囲気もない車で、そもそもこういった車を仕事や生活をしていく上で必要に迫られて購入している人たちが世界中にたくさんいるわけで、日本の、道路的には恵まれた環境で過ごしている私のような人間は、はっきり言ってしまえば買う必要のないものです。それなのに、こんなにも惹かれてしまうのはなぜでしょうか。もしこの車を購入したとしても、私なら大切に使用し、がれ場や不整地に行ったり、テクニカルなラフロードを攻めるようなことはしないでしょう。というか、この車を新車で購入する人のほとんどは、そうなのではないかと思います。でも、それでいいでしょう。いまどきのSUVとは違う、本気の道具感と、それと相反するような愛くるしいデザイン。そしてちょっとコツがいる、今時珍しいドライブフィールを毎日味わうというのも素晴らしいですし、あるいは悪路走破性が世界でもトップクラスに高いという事実を胸に秘めながら、大手を振ってオンロードだけを駆け回るのも案外悪くないはずです。

給油量32.3L 走行距離435.4km 今回燃費13.5km/L(AT)

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