トヨタ・カローラアクシオハイブリッド 試乗レビュー




乗り込んで一番最初に感じるのはふるさとに帰ってきたかのような落ち着き感である。内装の質感はお世辞にも高いとは言えないが、人間の常識に逆らうことなく配置されたスイッチやレバー類、そしてなにより、乗り込んだ瞬間から周りを全て見渡せるかのような視界の良さがそうさせる原因だろう。このチャンネル(ブログ)を見てもらえればわかるとおり、私はおそらく世の中の平均よりは数多くの種類の車を運転しているため、初めて乗る車の車両感覚をつかむことに関しては、どちらかと言えば得意な方だいう自負はあるのだが、それでも普段は初めて乗る車であれば最初の数キロは車両感覚をつかむことに尽力するのだが、カローラアクシオはもう乗った瞬間から車の四隅がどこにあるかがわかり、とてつもなく運転がしやすい車であるということを感じさせられた。着座位置はセダンとしては高めで、レーシーな雰囲気は全くないものの、これなら営業車などで使用する場合、あまり運転に慣れていない人でも安心して運転できるだろう。下手な軽自動車よりも車両感覚を掴みやすいし、セダンでここまでの視界を実現できるというのは並大抵の技術力ではない。
パワートレインについては、トヨタのハイブリッドにはこのチャンネルでは何度も乗車しているが、その中にあっては一番メカニカルノイズが大きいような気がした。加速時のエンジン音についてもそうだが、モーターの電気的な音についてもプリウスやアクアと比較して大きく入ってくる。初めからハイブリッド用として作られた車ではなく、あくまでハイブリッドは派生グレードであるという印象を受けるが、印象としては2代目プリウスに近い、荒削りに感じるところがある。エンジンが始動するときのショックは、アクアやプリウスと比較しても大きめである。とはいえ、モーターのみで加速する場合は静かであるということは変わりないため、例えば早朝に車庫から車を出す場合など、大きな音を出せないようなシチュエーションではハイブリッドで良かったと思う人が多いだろう。モーターを使用する特性上、起動加速は力づよいが、中高速域での伸びはいまいちだ。例えば対面通行の高速道路で、追越車線が出現した時や、前の車が登坂車線へよけてくれた時など、早く加速して欲しい時に必要な加速が得られないということが何度かあった。現行のプリウスでは、1800ccのエンジンを採用しているため高速域の伸びは以前よりもよくなったのだが、車格、値段、排気量的にワンクラス下であると言わざるを得ないこのアクシオハイブリッドがこれくらいの性能なのは仕方がないだろう。昨年乗ったフィールダーの1500ccのエンジンでは、高速域でも必要充分な加速を見せてくれたため、高速道路をキビキビと走る人であれば、燃費の面も含めてハイブリッドはあまりお勧めできない。ただし、これもトヨタのハイブリッドに乗った時は常に言っており、耳にタコができた人もいるかもしれないが、市街地を流しながら走っているときは走行距離のうち6割程度はエンジンを停止した状態であることや、低速トルクに優れている電気モーターの特性のため、非常に効率よく、流れるように走ることができる。しかも、運転者が何も考えずにアクセルを踏みブレーキをかけたとしても、車が最適なエネルギー制御を行ってくれる、クレバーなシステムである。
ハンドリングに関して、昨年フィールダーに乗った際はタイヤの条件が良かったためか、バイト感が非常に高く、しかも車全体が非常に軽く感じるため、クイックと言っても差し支えないような旋回性能を見せてくれた。今回乗車した車はハイブリッドのため、当然ながらエコタイヤが装着されていたのだが、それでもバイト感は大きく、前輪の接地を感じ取りながらハンドルを切っていくことができた。セダンボディの恩恵か、あるいはバッテリーによる重量配分の最適化のためか、重心はフィールダーよりも感覚的にはかなり低く感じるし、バイト感については15インチタイヤのプリウスよりもしっかりと感じ取ることができる。ただ、いまいちハンドリングからスポーティーさを感じないのは、ロールが深く、荷重移動の途中で車がどのように向きを変えるのかが掴みづらいという点や、ステアリング剛性が弱く、素早い操作に対しては反応が遅れがちであるという点が原因だろう。しかしながら、そもそもカローラがスポーティーである必要はないと言われればそれはもっともなことだし、ステアリングの剛性に関しては耐久性との兼ね合い、あるいはこの車を購入する人たちが、ソリッドなハンドリングを好まないということを考えれば、バイト感を高めて安全性だけ担保しておこうという思想は正解であると言えそうだ。
高速域でのスタビリティ性能は、率直に言えば現代の自動車の水準からいえば高い方とは言えない。道路の凹凸に対して車が向きを変えやすいし、高速になればなるほどハンドルがフラフラしてくるため怖い。この車を購入する人の年齢層を考えれば、たとえ高速道路でもそこまで飛ばして走ることはないだろうと考えがちではあるが、技術が落ちてきた人こそ安心して運転できる車が喜ばれるはずだし、私個人は運転が上手くない人こそスタビリティの高い車に乗るべきだと考えているので、次期モデルには期待したいところ。
乗り心地については、正直にいうと不満が残った。ハーシュネスの振幅が大きく、また揺れの動き出しは角がついており、少し時代を感じる揺れを伴う。エコタイヤのゴロゴロ感も大きく伝わってくる上に、ロードノイズも大きい。また、アクセルを開けると、エンジンの振動が床に伝わってくる。風切り音も時速60キロを超えたあたりから気になってくる。メカニカルノイズも含めて、現行のプリウスと比較してしまうと、車内は相当に騒々しい。ここは車両価格や、クラスの違いを如実に感じてしまうところで、より静かで乗り心地の良い車が欲しいのなら、もっとお金を出してプリウスを買えということなのだと思うし、それもまたマーケティングとしては全く間違っていない。トヨタのラインナップ全てを見渡した時に、欠点さえも間違いではないと感じさせてしまうのが良くも悪くもカローラという車だ。
現在のプリウスは、1800ccでファストバック形状、サイズは3ナンバーであるが、初代のプリウスは1500ccでノッチバック、そして5ナンバーサイズであった。つまり、初代プリウスの正当な後継者は、実はカローラアクシオハイブリッドであると言えるだろう。プリウスはTNGAを採用し、乗り心地やハンドリングのレベルを一段上昇させ居住性も申し分ないためか、家族持ちの中産階級はもちろんのことお医者さんの奥さんや反社会的組織に到るまで、まさにクラスレスで求められる自動車と言える一方で、カローラはやはり大衆車としての本分がわきまえられている。そしてその限られたリソースの中で、普通に乗って普通に運転できる、普通の車が完成した。人をあっと驚かせるような商品を作ることは難しいが、常識としていつの間にか世の中に溶け込ませる製品を作るのは、実はもっと難しい。カローラに乗った日本人は、なんだ普通の車じゃないかと思うだろうし、特に車好きが我先に欲しがるような商品でもないが、かといってこの値段でこの性能、そしてなによりこれほどまでに運転のしやすい車は、ほかのメーカーには作れないだろう。現状、カローラはCセグメントでハッチバックスタイルのモデルのみが新型として発表されているが、これはカローラというよりもオーリスの後継車種とみるべきものであるため、ノッチバックのセダンスタイルのカローラが今後どのように変貌を遂げ、トヨタの考える大衆車をTNGAによってどうやって表現していくのか、注目していきたい。

走行距離457.6km 給油量17L  今回燃費26.9km/L

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