トヨタ・マークX 試乗レビュー





エンジンについて、出力特性としては、当然ではあるが、クラウンと同じだと感じた。2500ccの自然吸気にしてはトルキーで、低回転から高回転までフラットなトルク特性を持っている。ドラマチックな吹け上がりを見せるわけではないが、とても扱いやすいエンジンであると言える。エンジンの音については、クラウンよりも少し大きく入ってくるという印象だが、そこまで大きな変化は感じなかった。巡航時はそれほど音は聞こえてこず、強い加速をするときは野太いエンジン音を発する。エンジンとキャビンの距離は、クラウンよりも近い印象で、加速しているときは振動を若干ではあるが床に伝えてきてしまっていた。だが個人的には気にするほどではない。エンジン特性についてクラウンと最も異なる点はレスポンスだ。正直に言うと、クラウンはアクセルを踏んでから、かなり時間が経ってからアクセルが吹け出すような印象だったのだが、マークXではそのタイムラグが半分くらいに軽減されている印象だ。それでもまだ、自然吸気にしてはタイムラグがある方だとは感じるが、クラウンよりもスポーティーな味付けにしようという意図は感じる。高速道路を走ると、3.5リッターくらい余裕があれば良いと感じることもあるが、市街地や峠道であれば2500ccでちょうどいいくらいかなと感じた。
トランスミッションである6速ATについては、こちらもクラウンよりも変速のスピードが早いと感じた。変速時のショックもほとんどなく、キックダウンのマナーも良く、スポーツモードではマニュアルモードによってシフトチェンジしなくても、それなりに気持ちよく走ることができる。そもそも、前述した通り、トルク特性がフラットであるため、しゃかりきになって高回転を維持する必要があるとも思えない。クラウンの時に感じた、発進時の違和感もほとんどなく、変速についてはマークXの圧勝であると言っても良い。同じ部品を使用しているはずだとばかり思っていたが、案外味付けなどに変化を加えているものだと感じる。
乗り心地については、突き上げ感が比較的大きく、特に大きなうねりのような揺れに弱いと感じた。ただ、トヨタの車らしく、低速域のハーシュネスや、細かい揺れに対してはいなし方がうまく、東京都内のように比較的鋪装がキレイで、速度域の低い環境なら、快適そのものだと感じる。また、後ろの席はホールド感があり、運転者が比較的荒い運転をしても左右方向のサポート性が高いだけではなく、ハーシュネスは前側より小さく感じたため、スポーティーセダンと思われがちな車ではあるが、案外運転手付きの車として使われるのも良いと思う。東京ではマークXの個人タクシーをよく見るが、こういった乗り心地の特性を考えれば、とても理にかなっている。風切り音についてはセダンらしく小さいが、ロードノイズはクラウンよりも大きかった。クラウンでは、履いているタイヤの条件が悪かったものの、それでもノイズの発生源からの距離が遠いような感覚があったのだが、マークXではその距離がより縮まったような印象を受ける。ただこれも、エコタイヤが路面の細かい凹凸を弾くような音がほとんどであったため、もっと性能の良いタイヤを装着すれば、そこまで気になる人はいないと言うレベルになると思う。それ以上に気になったのは、大きめの凹凸を乗り越えた時の、ドシンというサスペンションが衝撃を吸収する音の方で、路面状況の悪いところでは常にドシドシと車体に音が伝わってきてしまっていた。また、細かいことを言えば、ワイパーのモーター音は、現在の車の水準から言えば、比較的気になる方だとも感じた。ただ、ボディーの剛性は高いためか、大きな段差を乗り越えても、サスペンションが音を立てるだけで、ボディーに変な力が加わったり、ブルブルと震え続けるようなことはなく、基本的にはセダンらしい密閉感があり、クラウンと同様、一般道を法定速度以内で走るのであれば、スケートリンクの上を滑って行くかのようなフラットライド感がある。
ハンドリングに関しては、切り出しの感覚が若干鈍いと感じたが、相対的に前輪への負荷が大きくかかってしまう4輪駆動車特有の現象であるかもしれないとも感じた。一度タイヤが曲がり始めると、重心の低さも手伝って地を這って行くように、美しく旋回して行くことができる。フロントの剛性感はクラウン以上で、タイトコーナーが連続するようなワインディングロードも、気持ちよく、スピーディーにこなして行くことができる。ロールは小さく、動きも自然で、荷重移動がとてもつかみやすい。リアの設置感も良好で、FRベースらしく、前輪の主張に対してうまくサポートを行なっているように感じる。ただ、ステアリングの剛性か、16インチタイヤの横剛性の弱さなのか、ハイスピードで、かつ大きなアンジュレーションを受け止めた際のステアリングの収まりの悪さが気になった。一瞬ではあるが、ハンドルに感覚が伝わって来なくなり、それまでのしっかりしたフィーリングが無に帰してしまうような動きを感じさせる瞬間がある。カムリではそのようなことが一切起きなかったため、設計年代の違いもあるのかもしれないとは思ったが、個人的には、以前メガウェブで少しだけ乗った3500ccRDSのハンドリングや乗り心地が良いと感じたので、FR18インチタイヤを装着したグレードであれば、フィーリングはもっとよくなるかもしれないと思う。ただ、それを考慮に入れたとしても、現代の国産セダンの中ではかなりスポーティーなハンドリング特性を持っており、率直に言ってコーナーを駆け回るのがとても楽しいと感じた。ここは前回乗ったクラウンとの大きな違いと言えるかもしれない。
高速域でのスタビリティについては、レベルとしてはクラウンと同等だと感じた。基本設計が似通っているため、当然と言えば当然かもしれない。高速道路の追越車線ペースでも特に不満は出ないし、そもそも高速道路用のパトロールカーとしても採用されている車なので、スピード違反を取り締まるのに充分な性能を持っているはずである。シャシーに対しての安心感も大きいが、スピードが上がれば上がるほど、重心の低さを意識させられ、この時代にあえてセダンに乗る意味をかみしめることができる。ただ、やはりTNGAを採用したカムリと比べると、ステアリングのおさまりや、タイヤの接地感において、0.5段くらいはレベルが落ちると感じるのは、設計年代を考えれば仕方のないことだろう。
先週は、パワートレインやドライブトレインのスペックがほぼ同じ、クラウンアスリートに乗ったため、どうしてもその時の印象が強く残っており、いやが応にも私の中で比較してしまいがちではあったが、率直に言うと、クラウンよりもこちらの方が気に入った。クラウンよりも小さめのためか、ハンドリングは良好で、アクセルレスポンスにしても、シフトの反応にしても、鋭さをより感じた。また、車体は小さくても、その分スペースを効率よく使うことができており、ユーティリティや居住性の面の上で優劣をつけられるというほどでもない。前回も述べたが、クラウンは独自の世界観を持っているため、それに賛同できる人でなければ受け付けられないような感覚を持ち合わせていると言うことも事実である。一方のマークXは国産車らしい親しみやすさがある一方で、比較的ソリッドなハンドリングや、ボディの剛性感など、ヨーロッパの車を手本としたようなフィーリングを持っている。もうすぐ発表される新型クラウンは、よりスポーティーなフィーリングとなっているらしく、また、昨年私が乗ったカムリもまた、レベルの高い走りを見せてくれたため、マークXが必要とされる領域は確実に狭まっており、モデル廃止の噂が流れるのも仕方がないかと思う。ただでさえシュリンクしている日本の自動車市場にあって、さらに縮小しているセダンに、今更投資すると言うのは、単に経営的な視点で見ると、間違いであると言わざるを得ないだろう。ただ、私個人の希望をいえば、TNGAを採用し、強力なパワートレインを搭載した、コンパクトなFRセダンとして、もう一度マークXに登場してもらえたら嬉しいと思う。クラウンやカムリは、乗り心地やハンドリング、あるいは安全性などを極めて行く現状の路線で間違ってはいないとは思うが、レベルが高いとか低いとかではない、トヨタの開発者が考える、最高のFRセダンを実現する手段として、車に対する思想や哲学を体現する場所がここにあるはずだ。そういった味のようなものを今回乗った車からは少しずつ感じかけていたために、もし本当にマークXを今後作らなくなってしまうと言うのならば、開発者の志半ばのようなものを感じ得ず、私は残念でならない。

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