フォルクスワーゲン・アルテオン 試乗レビュー







名前の由来が風にちなんでいるものが多いフォルクスワーゲンにあって、アルテオンの車名は特異だと言える。最初のスペルである、ARTはアートという意味が込められているらしく、全長が5メートルに迫る大柄なボディーに、すっきりとしたシルエット、迫力のあるグリル、そしてヘッドライトやテールライト,のきめ細やかな造形をみるにつけ、ウォルフスブルクの技術者たちが、この車をアートだと呼びたくなる気持ちもわかる気がする。国産車では、まるで仮装大賞の得点掲示板のように、遠くからでもドットが丸見えのものが多い、シーケンシャルヲンカーも、きちんと流れるように作ってあって美しい。前の座席は圧迫感があり、横置きエンジンの車らしくボンネットはあまり長くなく、徐々に大きくなるRを描くように落ちていくため、ボンネット前をこすってしまうのではないかという心配はあまり起きなかった。一方で囲まれ感の割には車の幅が広く感じ、狭い道でのすれ違いには気を使った。周辺の道路環境によっては、購入を再検討しなければならないかもしれない。後ろの席は背もたれが立っており、硬いことが難点ではあるが、広々としている。4メーター80センチ、横置きエンジンのファイブドア車で、狭いわけはないのだけれど。内装の静的質感はフォルクスワーゲンの世界観そのものだ。人によってはゴルフやポロと同じような雰囲気なのに、500万円以上払えないとか、外装が派手なのに、内装は地味でそっけないと感じるかもしれないが、そもそもゴルフやポロの内装の完成度が高すぎるし、もし世界観をまるっきり変えてしまいたいのなら、もはや上位ブランドであるアウディやポルシェに切り替えよということなのだろう。ただし、動的な質感で言えばスイッチやレバーのクリック感が安っぽいと感じる部分もある。国産の一部のメーカーでは克服しつつある問題であるため、いくら大衆車のブランドであるとは言え、世界に名だたるフォルクスワーゲンのフラッグシップであれば、もう少し気を使っても良いかもしれない。インストルメントパネルの表示は全て液晶だが、この発想自体はとてもいいと思う。必要に応じてメーターを大きくしたり、ナビの方を大きくしたり、ナビが必要ないときは別のものを表示したりと、一番重要なものを最も視線移動の少ない場所へ表すことのできるのはフル液晶の特権と言える。初めて乗ったからなのかもしれないが、メニュー表示がわかりづらいと感じたため、走行中に不用意に弄らないためにも、走り出す前に設定を終えておくのが良いだろう。
走り出してみると、フォルクスワーゲンらしい楽しさに、笑顔がこぼれた。エンジンはわずか2リッターながら、1700キロを超える重量をものともせず、発進時にわずかに半クラッチしながら、スルスルと速度を上げていく。大排気量で多気筒のエンジンと比べると、粒の細かさというか、出力のドラマチックさのような感覚的な部分ではまだまだ及んでいないとは感じるものの、出力の特性としてみてしまえばかなり扱いやすくなった。低回転からかなりのトルクを発生するため、高回転までわざわざ引っ張る必要がない。実用的なダウンサイジングターボエンジンを長年にわたって作り続けていたフォルクスワーゲンならではの優秀なエンジンだ。デュアルクラッチもあいかわらず変速スピードが早く、ジェントルに走っていればギアチェンジの際のショックもほとんど感じない。当然ながらダイレクト感もあり、エンジンと右足との一体感を味わうこともできる。いまどきはCVTもかなり優秀になってきたが、このダイレクト感を味わうとなかなか戻れなくなると主張する人の気持ちも非常によくわかる。ただ、この車のプレミアムな雰囲気からすると、トルクコンバータ式の多段ATの方が、いまなら合っているような気もしてきてしまうが、ここはあくまでもフォルクスワーゲン、よりカッチリとしたフィーリングを持たせたかったのだろう。また、ファーストのギア比が大きめで、発進時にドンとトルクが急に立ち上がることがあるので注意が必要だ。
幹線道路に出て驚かされたのはその乗り心地だ。まるでモーターショーのコンセプトカーのような、巨大なホイールを履いている割には、路面からの入力がふんわりとしている。見た目やハンドリング重視の車の中には、無駄にインチ数の大きなホイールを履いているために、シャシーやサスペンションが車輪を履きこなしておらず、わずかな凹凸で大きく突き上がってしまったり、タイヤハウスの中で、車輪が暴れまわっているというものもあるのだが、アルテオンは20インチタイヤをそつなく履きこなしている。さすがにショーファーカーのようだとまでは言わないが、ドライバーズカーとして、あるいはグランドツアラーとして、長時間の運転も、同乗も苦にならないセッティングだ。ドイツの高級車なので当然と言えばそうだが、ボディの剛性感は高く、揺れをボディが受け止めても後に引くことは一切ない。ただ、個体差だとは思うが、センターコンソールのあたりがプルプルと音を立てていたほか、後輪が衝撃を受け止めた際は、ドサっという大きめの音が響き渡っていた。このあたりは、スポーツバックではなく、ノッチバックスタイルだったのなら解消されたのになと、セダンマニアである私は思ってしまう。ロードノイズはすこし大きめだが、外国車の中では小さい方だと言ってもいいかもしれない。
アクセルを踏み込み、スポーティな走りをしてみると、この車には二面性があることに気づかされる。巡航時であれば存在感を消し、淡々と回り続けていたエンジンが、突然唸り声をあげ、どう猛な野獣のごとく車を引っ張っていく。ノーマルや、コンフォートモードではいささか軽すぎると感じたステアリングも、スポーツモードでちょうど良いくらいの重さで、ワインディングを右へ左へ走っていくと、巨大な体をゴリゴリとコーナーの内側に突っ込ませながら曲がっていく。これはこれで楽しいが、やはり個人的にはワインディングを走るのなら、軽い車の方が楽しいと思う。車のヨー慣性モーメントはどうしても大きく、また1700キロを超える重量のため、身のこなしは軽やかとは言い難い。ただ、重心の低さは感じるため、SUVやミニバンにはない安定感を存分に味わうこともできる。今回はすこしの距離しか高速道路に乗ることはできなかったが、ドイツのサルーンの高速スタビリティ性能が悪いわけはない。これはフォルクスワーゲンにアウディ、メルセデスにBMWあたりのスタビリティの差異を国内の道路で確かめることはほとんど不可能だ。もはやスピード感がないという領域に達しているため、スピード違反で捕まってしまうことに注意しなければならない。

昨年初めて実物を見て以降、デザインの美しさに感銘を受け、以降ずっと気になっていた車ではあったのだが、想像通りのレベルの高さであった。ただ、全体的な感想として正直なところをいうと、エクステリアデザイン以外にこれといった特徴も見いだせなかった。デザインセンスは逆方向とはいえいまやトヨタのカムリもかなりのドライバビリティを誇り、メルセデス、BMW、アウディといったジャーマンスリーは言わずもがな、そのほかのメーカーにも優秀でキャラクターの立ったセダンはたくさん存在する。そのような中でアルテオンはブランドイメージとの整合性や、同じ資本であるアウディとのカニバリズムを意識している感覚を、なんとなくだが受けてしまう。特徴はないけどレベルが高い。それが許されるのはパサートまでではないだろうか。せっかくこんなにセクシーな外観を持っているのだし、なんといっても初代なのだから、愛しく感じてしょうがない、ひとつのキャラクターがあって欲しかった。


https://www.youtube.com/watch?v=544qo8M63Vc&t=183s

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