BMW 320d 試乗レビュー










車に乗った瞬間、というよりももはやドアを開けた瞬間から感じる車のカッチリ感は尋常ではない。取っ手の動き方や音、ドアを閉めた時のハマり度合いなど、兎にも角にもカッチリとした演出に余念がない。車に乗り込み、シートに身を預けると、この車をスポーツセダンと解釈したとしても、それでもとても低いドライビングポジションに驚いてしまった。私は普段、スバルのWRXに乗っているのだが、これに知人を乗せると着座位置の低さに大体驚かれるのだが、その私が低いと感じたのだからその低さたるや相当なものだ。なので、これが一番低い位置なのかと思ってパワーシートを操作したところ、沈む! まだお尻が沈み続けていく! 一番シートを下げた状態での着座感覚はもはやセダンというよりも86RX-7のような世界観で、ピュアスポーツの目線感覚に近い。お尻と地面は一体どれくらいの距離があるのだろうか。考えるとちょっと恐ろしい気分になる。着座位置が低いのであれば視界は悪いのではないかと予想しがちであるが、決してそんなことはない。フロントスクリーンからは上下がしっかり見渡せるし、左右方向の視界も良い。ピラーによる視覚も最小限で、交差点で歩行者を確認する為に身を乗り出すようなことは少なかった。視界を良くする為に、安易に着座位置を上げてしまう車も多いのだが、本来はいかに着座位置を下げ、重心を低く保ったまま視界を改善し、安全を確保するのかというのが自動車の設計者の腕の見せ所である。どうやらミュンヘンにはそこらへんを大いに理解した腕の立つ設計者がいるようだ。エンジンに火を入れると、近年のディーゼルエンジンにしてはかなり自己主張の強さというものを感じた。アイドリングストップから復帰する時は、ピストンが床を思いっきり叩きつけるように元気よく再始動し、アクセルを踏み込むと低回転から高回転に至るまでグングンと音を響かせる。最近の車は、ガソリン車だろうが、ディーゼル車だろうが、ハイブリッド車だろうが、60キロ程度の巡航で、エンジンがうるさいと感じることはあまりないのだが、この車は比較的コロコロと音を伝えてくる。また、少しでもエンジンに負荷をかけると、アクセルペダルやブレーキペダルに振動が伝わってきてしまう。音や振動という観点で言えば、マツダやプジョーなどのクリーンディーゼルと比較するとそれほどマナーが良いとはいえないかもしれない。また、エンジンの音質も低回転では明らかにディーゼルだとわかるガラガラ感があり、高回転でも4気筒を意識させるまとまりのなさのようなものを感じる。しかしながら、振動はきつく、音がうるさく、しかも音質も良くないと言いながら、なぜかそれらを許せてしまうバランスのよさというか、作りのうまさのようなものを乗り込んだ時からずっと感じており、その原因を探るため、ワインディングロードへ車を持ち込んだ。なんといってもステアリングの剛性感が半端ではない。ハンドルを切り込むと車体はリニアに追従し、ロールもそこそこにぴったりと地面に吸い付きながら前輪は正確にコーナーをなぞっていく。車との一体感という意味においては、もはやタイヤが自分の手足の延長にあるかのような錯覚に陥るほど機械との一体感がある。そこへさきほどのエンジンの音や振動が組み合わされると、自分の五感をすべて研ぎ澄ましてドライビングに没頭できる環境が生み出される。ステアリングからは路面の状況がどちらかというと過剰に伝わってくるため、ゆったりとした乗り味を楽しめるというわけではないのだが、自動車という機械を操る喜びに満ち溢れている。ディーゼルエンジンなので当然といえばそうなのだが、千回転台からググッと強力なトルクを車輪に伝えることができる。そのため、峠道を走っているとカーブの出口で後輪が滑りオーバーステアの傾向を示すことがある。しかしながらボディーやシャシーの剛性感が強く、これまた車全体の一体感が功を奏し、そこまで怖い思いをすることはないし、トラクションコントロールも優秀なので、それを切らない限りはスピンすることはないというか、不可能だ。
ドイツといえば言わずと知れた、アドルフ=ヒトラーが作ったアウトバーンの国である。したがって、大衆車であっても時速200キロ程度のスピードではびくともしない設計のものが多く、日本の道路であれば余裕がありすぎて持て余すくらいの過剰性能が魅力の一つでもある。実際、今回乗った320dも剛性感は高く、国産車の平均値と比べたら当然ながら高速域での安定性や安心感は大きいものだった。しかしながら、ドイツブランドのの乗用車というくくりで見ると、取り立てて性能が高いとも感じなかった。具体的には2点が気になったわけだが一つ目としては、ハンドルセンターが比較的甘いということである。センターから3度くらいまでのフィーリングが、特に高速域になると希薄になり、まっすぐの位置を探ったり、レーンを微調整する際のちょっとした操作がやりづらい。また、高速道路のカーブの途中で路面が荒れている場合なども、一瞬タイヤが地面から離れるような感覚になってしまい、自分が思っていたよりもカーブの外側に飛ばされているということもあった。スタビリティよりも、アジリティを優先した結果のような気もしてしまう。比較対象として、ちょっと微妙なところは承知の上であえていうのなら、新型のクラウンや、カムリに乗った際はこれらの問題が徹底的に解消されていたということを思うと、よもや日本の自動車が、高速域でのスタビリティ性能でドイツ車に打ち勝ってしまう日が来るなんて夢にも思っていなかった。今回乗った3シリーズは、基本設計が6年前で、もうそろそろ新型が発表されるということを考えると、設計年次的に不利だったと言えなくもない。ただ、3シリーズと車格的に近いマークXTNGAで作ることができたのなら割と本気で3シリーズを打倒してしまえるかもしれないとは感じた。もちろん、私のレビューでは、時速200キロ台の、アウトバーンのような高速域での試験はできないので、そういった領域ではもしかしたら3シリーズの方が有利という結論になるのかもしれない。エンジンはディーゼルにしては非常によく回り、5千回転までならすっきりと回ってしまう。高速道路を一定速度で巡航するのなら、やっぱりディーゼルが一番楽だし、追い越しもそれほど苦にならない。ただ、私のように、それ以上エンジンをブン回して走りたいのであれば、潔くガソリンエンジン車を買うしかないだろう。
乗り心地については、どちらかといえば硬いが、やはりこれも車の一体感が強い為、揺れても不快だとは感じづらい。一瞬つき上がるような動きを見せてもすぐに路面にピタッと追従する為、後腐れというものがない。実にスポーツセダンらしい乗り心地だ。ロードノイズもドイツの車にしては小さい方だが、国産車と比較すると平均レベルといったところだ。

3ナンバーとはいえ、どちらかといえばこぢんまりとした佇まいに、かっちりとしたボディ、一体感のある操作フィールはBMWのイメージそのものだ。そして、わざとなのか、結果的にそうなのかはわからないが、適度なエンジンの騒音や振動、ハンドルから伝わって来る過敏なロードインフォメーションは、機械と一体になる喜びに満ち溢れたドライバビリティを演出している。車の大きさも日本で扱うにはちょうどよく、セダンなので使い勝手もよく、まさに万能選手だ。BMWのラインナップの中では、そこまで派手な存在とはいえない3シリーズだが、私の経験から言えば、これは最もBMWのステレオタイプに沿って作られているBMWだ。お金に余裕のある人は、5シリーズや7シリーズ、あるいはSUVを検討するだろうし、それらもまた良い車には間違い無いのだが、そういった人も一度3シリーズに試乗してみたのなら、BMWの作りたい世界観に対して納得できるというか、どこか腑に落ちるものを感じ取ることができるだろう。

給油量42.2L 走行距離736.7km 今回燃費17.5km /L カタログ燃費21.4km/L

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