三菱・ミラージュ 試乗レビュー







ランサーにパジェロ、デリカにエクリプス、三菱がこれまで育て上げてきた車は、もはやどれもブランドであるといっても良い。80年代から90年代、1.6リッタークラスの王者の座をかけて、シビック、レビン、パルサーといった、スポーティーなコンパクトカーがしのぎを削っていた中、マイベックエンジンを搭載し、絶対王者シビックへ、勇猛果敢に挑み続けるミラージュの姿は、多くの車好きを熱狂させたことだろう。その時の様子は、昔のベストモータリングの動画でも見ていただければよくわかるので、解説はそちらにお譲りするとして、今回乗車したこの6代目ミラージュはタイランドで生産されるエコロジーでエコノミーな車という位置付けだ。ご存知の通り、現在の三菱にはスバルのWRXと意地の張り合いをするスピリットもなければ、VTECエンジンに果たし状を突きつけるようなバイタリティも感じられない。かろうじて残された、4輪駆動の高い技術力と、プラグインハイブリッドの開発、そして日産へのOEM供給網によって、なんとか市場に踏みとどまっているというのが日本から見る三菱自動車の姿ではある。しかしながらこのミラージュを見ていると、世界に目を向けたもう一つの三菱の姿が浮かんでくる。低価格車による世界戦略だ。タイランドで製造され、日本やアメリカ合衆国を含む、世界90カ国以上に輸出されるミラージュは、アメリカで、2年連続ベストエコノミーパフォーマンスカーに選定されている。つまり、購入費用から維持費用までを含めたコストが、アメリカで最も低い車であるということらしい。アメリカという国は、自動車に対して目の肥えたユーザーが多かったり、際限のない販売奨励金戦争や激安中古車の流通網が強いということもあって、トヨタがサイオンブランドを廃止したように、低価格ブランドというものが定着しづらい国なのだが、それにもかかわらず三菱はミラージュという低価格車によって継続的に利益を生み出し続けている。前置きが長くなったが、そのミラージュを日本で所有するということついて、検討していきたいと思う。車両価格は下位グレードで消費税込みの本体価格が約138万円。一方で、トヨタのヴィッツは、排気量が1リッターだと、118万円から購入でき、ミラージュでは標準装備の、プリクサッシュセーフティを装着しても124万円程度、ただ1.3リッターにすると、一気に150万円近くになってしまう。一方で日産のマーチは、信じられないことに自動ブレーキをつけることもできず、ミラージュと同じくタイランド製で、エンジンも同じく1,2リッターの3気筒。価格は115万円程度からとなっている。ミラージュの装備の充実度合いが好印象だが、個人的にはこの程度であればそこまで価格の訴求力は大きくないと思うし、この値段であれば中古車も視野に入ってくると思うのでライバルは想像以上にずっと多い。さて、エンジンをかけるとブルんと上下動が起こり、車全体がプルプルとチワワのように震えだす。エンジンが温まると振動は徐々に収まってくるが、それでもブレーキやアクセルにはずっと振動が伝わってくる。また、時速60キロ程度で巡航している時も、ノッキングのようにブルブルと震えだす。これは昨年乗った、日産のマーチやラティオでも見られた現象だ。4気筒エンジンのコンパクトカーに慣れてしまった日本人にはちょっと厳しいかもしれない。ただ、今後はコンパクトカーからショーファードリブンに至るまで、排気量のダウンサイジングとともにダウンシリンダー化がより一層進むことになる。コンパクトカーは3気筒が当たり前になるだろうし、もしかしたら2気筒エンジンも復活してくるかもしれないことを考えると、ちょっと憂鬱な気持ちになるがこれからはこっちがスタンダードなのかもしれない。CVTはローギヤードよりなのか、発進加速時はアクセルをちょんと乗せるだけで、グイッとクルマを前に引っ張ってくれる。しかしながら時速40キロ程度からすでにエンジンは息切れをはじめ、中間加速は伸びやかとは言えず、高速道路で追越車線に出るためには、よほどの戦略立案と安全確認を行ってからでなければ危険であると思う。この特性もマーチと同じものであるため、3気筒のCVT車はだいたいこのような感じなのかもしれない。そのCVTも一昔前のものといった感覚がある。低速域ではギクシャクしがちだし、アクセルのオンオフを繰り返しているとアクセルのつきが悪くなる、いわるゆラバーバンドフィーリングが出現する。スポーツモードは回転数をやたらとあげるだけで、ダイレクト感が生まれるわけでも、レスポンスが良くなるわけでもなく、回転数を上げてもパワーが伸びるわけでもないので、ワインディングを走って気持ち良いとは思えないだろう。アイドリングストップのマナーについては、始動時のキュルキュル音も大きいし、発進時はギクシャクする。再始動も速いとは言えない。これが3年前の基準であればレベルが高いと思ったのだろうが、いまや他のどのメーカーも水準を上げてきてしまったため相対的にはどうしても仕方ないところかもしれないし、3気筒エンジンという点から言っても不利なのかもしれない。駐車場を出た段階で、ステアリング剛性が壊滅的に低いということはわかったが、最初にカーブを曲がった時はこれが本当に現在の日本で売られている車なのかと自分の感覚を疑ってしまった。ハンドルを切っても車はなかなか反応せず、やっと曲がってもサスペンションの横剛性が全くない。しかも、なぜかこの車はハイグリップタイヤであるポテンザを新車装着している上に、重量は900キロ程度と軽いためグリップ力だけはやたらとあり、結果としてサスペンションやボディ、ステアリングに尋常ではない負荷がかかってくる。コーナーの度にボディや足回りがねじ曲がり、薄気味悪さを味わうことになる。なんでもかんでもグリップ力が厚いタイヤを履かせればよいというわけではないという典型例で、個人的にはブリヂストンならPLAYZあたりをつければ良いのにとおもうし、ロードノイズは増えそうだが、普通にエコピアでも良さそうなものをと感じる。電動パワーステアリングのセッティングも煮詰めが甘い。センター付近で反力を弱め、油圧パワステの動きを再現したかったのは理解できるが、動きには段があり、セルフアライニングトルク出方が一定にならないため、ハンドルを切るのも、戻すのも怖い。今時スタビライザーすらついてないのかよと言いたくなったが、後で調べたところこれでもフロントスタビがついているらしく、それすらなかった前期型は一体どれほどのものなのか、逆に味わって見たくなってしまった。ちなみに、ロール量は今まで乗った車の中では、軽自動車を除けばもっとも深いと感じた。ほとんど同じコンセプトである、マーチと比べ、勝っていると感じたのは乗り心地、とくにもロードノイズだろうか。マーチがあまりにもうるさすぎたということもあるが、タイヤが良いということも手伝ってまあまあ標準的と言えるノイズしか入ってこない。ハーシュネスは、低速域では揺れが小さいのだが、時速40キロを超えると急に上下の動き幅が大きくなる。アクアやヴィッツもそのような傾向を持っていたのだが、振れ幅は倍くらいある上に、大きく揺れた後はボディにガタピシと振動が残ってしまっている。シートもストローク感が無く、背もたれには変なところに芯があったりして、30分も座っていると腰が痛くなる。左右方向のホールド感もない。はっきり言ってしまえば、のりごこちと操縦安定性は、安っぽいという表現がもっとも的確だ。また視界についても左右方向は良いのだが、どうしてこんなに着座位置が高いのだろうか。乗り降りはしやすいのかもしれないが、天井に目線が近すぎるせいで小さな交差点では信号が全く見えない。まあ、後輩から時々指摘されるように、私の座高が高すぎるせいもあるのかもしれないが。

安っぽい車は、別に存在してもいいと思う。全ての車がプレミアム路線に移行してしまったら、日常でガツガツ車を使いたい人は大いに困ることだろう。ただ、もし毎日の生活を便利にすることを車の第一の存在意義として考えるのなら、やはりトヨタやスズキには勝てていない。緊急自動ブレーキやアルミホイール、キーレスエントリーがついて138万円は確かに安い。が、使いやすさや親しみやすさというのは基本がしっかりできた上で演出できるものだ。安くて頑丈で車の消耗を気にせず運転できるというだけでは親しみやすい車とは言えない。三菱にとってみれば、ミラージュは年間4万台以上を生産する稼ぎ頭であるため重要な基幹車種である。だがミラージュのかつての栄光を思い出すにつけ、いつのまにか三菱の中でミラージュの解釈が変わってしまったようで大変残念である。

給油量27.3L 走行距離451.6km 今回燃費16.5km/L

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