スバル・インプレッサスポーツ 試乗レビュー









先代インプレッサの最下位グレードは、内装のクオリティーが上位車種とあまりにも差があったが、今回のモデルは、所々変化は見られるものの、大まかな雰囲気が上位モデルと一緒という点が素晴らしい。スバルの良心を感じる。

エンジンは先代から特に改良されたという話は聞いていないが、トランスミッションとのマッチングが良くなり、非常にドラマチックな吹け上がりを見せ、アクセルを踏むととても気持ちが良い。回転数の上昇に合わせて、リニアにトルクが立ち上がるため、早く加速したいときは、回転数を上げれば良いという、単純明快な操作フィーリングは、ダウンサイジングターボやディーゼル、ハイブリッドやEVが幅を利かせる昨今では、実は珍しいものだ。極めて回転数の低い領域では、やはり線の細さを感じてしまうが、アクセルに対するレスポンスは素晴らしく、現代のエンジンにしては、迷わず高回転まで吹け上がる。先代の1.6リッターエンジンも、回せば気持ちよかったものの、どこかもったりとしていて、特に低中回転域では、眠い印象があったのだが、今回の1.6リッターはとても元気が良くなり、鼻先の動きも軽快になるなど、積極的にこちらを選ぶ理由になりうる。冷間始動直後や強目に加速したときは、3千回転あたりのところで、水平対向特有の、ポロポロというノイズが聞こえてくるが、それもわずかだし、巡航中はエンジン音は全く聞こえない。水平対抗なので当然振動は全く伝わってこない。また、アイドリングストップは始動が非常に早く、2リッター同様、再始動時のショックも小さい。
トランスミッションはむしろ2リッターよりも、こちらの方がマッチングが良いのではないかと感じる。2リッターでは低速域でのアクセルの操作性に若干違和感があるのだが、こちらのモデルではむしろシームレスに、滑らかに加速していく。先代のインプレッサでは、1.6リッターでは(前期型だと)パドルシフトがなければ、マニュアルモードすらないという、リニアトロニックの良いところを全く享受できない、悲しい仕様だったのだが、ついに今回から、最下位グレードでもパドルがついた。ギア比は多少ロングよりだとは感じたものの、操作した瞬間にカチッと変速が決まる上に、ショックもそれほどでないため、雪道などでは非常に頼もしい。ダイレクト感ではデュアルクラッチや、多段のトルクコンバータ式には勝てないものの、ギクシャク感が嫌いだという人や、市街地をよく走るという人にはむしろうってつけと言える。Dレンジでフルスロットルにした場合は、擬似的に変則に段がつくが、OEMを除けば、最も安いスバルの車に、この機能がとうとうついたというのは、個人的には感動ものだ。ただ、3ペダルのマニュアルの設定をなくしたのはいただけない。全車種にアイサイトを搭載したかったという意図はわかるが、トヨタやスズキなど他のメーカーではマニュアルで、緊急ブレーキシステムが搭載された車を販売しているため、技術的には無理ではないはずだ。デュアルクラッチやトルクコンバータ式などの多段ATを採用して欲しいという声を、ネット上ではよく聞くが、インプレッサの、特に1.6リッターであれば、このトランスミッションがむしろベストマッチングだと思う。レヴォーグやWRXS4、あるいはインプレッサの2リッターあたりは、やはりそろそろトランスミッションを根底から見直す時期に来ているという気が、個人的にはしている。
乗り心地は、セダン同様とても良い。おそらく日本で買える、200万円代の車の中で、最も乗り心地が良い車であろうことは、以前アップした、G4の動画で述べたとおりだ。今回はさらに16インチのスタッドレスタイヤ装着ということで、ユラユラと、車酔いを誘発するような揺れが発生してしまうのではないかと恐れていたのだが、足回りがきちんと16インチ向けにセッティングされているのだろう、余計な揺り戻しや足回りがばたつく印象もなく、エアボリュームもブロックも厚いタイヤをきちんと履きこなす、庶民的で親しみやすい足回りだと感じた。ロードノイズはかなり静かな方である。重低音は全く聞こえず、強いて言うなら、かなり遠くの方から、スタッドレス特有のパターンノイズが聞こえてくる。ハッチバックでこれほどの静粛性を出せるというのは正直驚きだ。
そうなると心配なのはハンドリングであろう。ハンドルセンターはしっかりしており、切り出した瞬間から車の動きを感じ取ることができる。また、急ハンドルを切っても、急激なロールは出ず、かといって一切ロールを許さないわけでもなく、本当にちょうど良い。スバルグローバルプラットフォームの恩恵で、ボディーやシャシーもねじれ知らずで、どんな路面状況だろうが、カーブの内側に吸い込まれるように、華麗に曲がっていく。個人的には17インチを履いたインプレッサが、最もバランスが良いと思っているのだが、それと遜色のないくらい、コーナリングスピードも早く、また、カーブが楽しい上に安心感も高い。セダンと比較して、剛性感に欠けるのかと思いきやそんなことは一切感じないのは、セダンよりもリアのオーバーハングが短いからかもしれない。ステーションワゴンやSUVにありがちな、リアがフロントの動きについてきていない感覚は、この車ではいっさい受けなかった。雪道ではSUVが便利だと思われがちだが、やはり圧雪路やシャーベット状の道では、重心が低く、路面状況を把握しやすい車のほうが運転しやすい。
高速域でのスタビリティーについては、スバルの自社生産車で、不満に思ったことなどないが、先代のインプレッサと比較しても、向上していると言える。ハイスピード領域になっても、ボディーはフラットな姿勢を維持し、矢のようにまっすぐ進んでいく。ハンドルの手応えはしっかりしており、道路にアンジュレーションがあろうが、横風が吹こうが、道路に突然動物が現れようが、逆走してくるハイブリッドカーがいようが、どうにでも対処できそうな雰囲気さえ漂っている。昨年レビューした、17インチの2リッターG4と比較すると、高速でカーブを曲がった時に、若干後ろのサスペンションが跳ねる印象が強いように感じたが、これはハッチバック形状によるものなのか、16インチタイヤによるものなのか、いずれにせよ日本の道路を普通に走る分にはオーバースペックとさえ言えるほど素晴らしい。

先代のインプレッサなら、1.6リッターと2リッターなら、多少値段が高くとも、絶対に2リッターを買うべきだと思っていた。しかし、今回の1.6リッターの出来の良さを考えると、非常に悩ましい。2リッターエンジンは直噴化のため、燃費が向上しているので、AWDだと燃費はほとんど変わらないのに、税金は同じ額を取られてしまう。それに、2リッターとの価格差は、約20万円なので、だったら2リッターを買おうという人が多い気がするし、事実私も家族の車を選んだときは、2リッターにした。ただ、2輪駆動の最下位モデルだと、税抜き180万円から購入できるというこのコストパフォーマンスの高さは、ほとんど世界最強レベルと言っていいだろうし、1.6にしたからといって、内装の質感や、運転の楽しさを諦めなければならなくなってしまうわけではない。レビュー記事でこんなことを言っては元も子もないが、初期投資の20万円を節約するかどうかは、実際に自分で試乗してみて、どちらが自分の肌にあっているのか、確かめてみて、判断するべきだ。親しみやすいのは1.6だが、2リッターはやはり余裕を感じる。ハッチバックかセダンかということに関しても、完全に好みで決めて良い。私はセダンの見た目が好きだし、何よりも、人間様のスペースと、荷物のスペースは分離するべきだという、なんとも古風な考えの持ち主なので、G4のほうを買わせた。だが、乗り心地やドライバビリティーで言えば、ほとんど差がなく、かつてのようにステーションワゴンやハッチバックのほうが、セダンよりも走りで劣っているというイメージは、もはや抱く必要はない。買い物にも、遠出にも、レジャーにも、ビジネスにも、なんでも使えるコスパ最強のインプレッサ。中でも1.6リッターのハッチバックはスバルの真面目さと、人の良さがわかる一台だ。

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