トヨタ・ランドクルーザーシグナス 試乗レビュー









エンジンはスペックで見ると非常にパワフルだが、さすがに2.5トンを超える車重を動かすとなると、相殺されて普通の車と同等の加速に感じる。ただ、重量が軽くて非力なエンジンの車と、重量が重くて強力なエンジンの車では、同じトルクウェイトレシオだとしても、重量の重い車の方が、なんとなく余裕を感じることが多い。車輪が大きく、重いうえに、直径も大きいということを考えれば、最初のひところがりがスムースに感じることは、むしろ驚異的な出力のエンジンであると言えるのかもしれない。一度スピードに乗ると、車はスイスイと加速していく。シリンダーの多いV8エンジンであるため、高速巡航はお手の物で、軽々と巨体を高速域まで持っていってしまう。エンジン音については、アメリカの車のように、ドロドロとした音を予想していたのだが、アクセルを吹かすと、思ったよりも乾いたような、ミーンという高音が気になるエンジンで、最初ははV6エンジンなのかと勘違いしてしまった。一般的なV8エンジンのような、ドロドロとした野太い音が好きな人は、少しがっかりしてしまうかもしれない。パーシャル領域や巡航レベルであればエンジン音はほとんど伝わって来ないし、走行中はエンジン振動も伝わって来ない。多気筒エンジンの優秀さをこれでもかと感じ取ることができる。
トランスミッションである5速のオートマチックは、やはり時代を感じる出来栄えであった。基本的にはコンフォート志向で、ダイレクト感はあまりないのだが、ファーストからセカンドにギアチェンジするときは若干ショックを感じる上に、アクセルを踏み込み、キックダウンを起こした時は、かなり大きなショックが出る。また、エンジンブレーキを使用するため、セレクトレバーをセカンドレンジにすると、これまた前のめりになるような、ガクッとする動きが出る。特にも最近のCVTの、良くも悪くもまろやかなフィーリングになれている人は、少し戸惑ってしまうかもしれないし、凍結路の下り坂などでは、これをきっかけにして挙動が乱れてしまうかもしれない。ただ、当時の車だと、高級車でもだいたいこんなものであるため、この部分を指摘して欠点だといってしまうのはかわいそうだと言える。
この車にはコンフォートモードと、スポーツモードを切り替えるつまみがあるのだが、スポーツモードの状態だと、路面の細かい凹凸を拾い上げ、コツコツと床が動く感覚があり、また大きな突き上げも、割とお尻に感じてしまう。タイヤのブロックが大きいためか、ゴロゴロとしたフィーリングはなく、また足回りがばたつく印象はないのだが、率直に乗り心地は硬いと感じる。つまみをコンフォートモードにすると、体感として乗り心地が圧倒的に変わったことがわかる。助手席にいる限りでは、ずっとコンフォートモードで走ってもらいたいと感じる。相変わらず大きな突き上げはドシッと響くが、小さな突き上げはほとんどなくなり、重い車特有の重厚感によって、力技的な乗り心地の良さを体感することができる。相対的にいえば、本物のクルーザーのような、雄大でふわふわの乗り心地を期待していたため、思ったよりもハーシュネスが大きいと感じることが多く、少しがっかりしてしまった。最新型のランドクルーザーや、レクサスLXでは、乗り心地は改善されているのだろうか。とてもきになるところである。
ハンドリングについては、当然ではあるがあまり良くない。経年劣化のせいもあるとは思うが、ラダーフレームとボディーの間で、意思疎通が取れていない感覚があり、別の車を動かしているかのように、ボディーとシャシーの一体感は希薄である。モノコックボディーの車でも、車の後ろ側がついてきてくれないという感覚は時々感じるものがあるが、車の上下で一体感がないというのはあまり体感したことがない。ハンドルの重さは平均よりは少し重いが、それでいて非常に動きがスローなので、感覚的に普通の車の倍ハンドルを切らないと、交差点などを曲がってくれない印象があり、直進に戻す際もハンドルを戻す量が足りないことがあり、あせってしまった。また、コーナーが連続するような場所では、モノコックボディーの車のありがたみを感じてしまうほど、路面からの情報は希薄である。それらの印象から、乗った当初はとても運転がしづらい車だと思っていたのだが、この車独特のリズムを一旦掴んでしまえば、そのあとは普通に運転することができるようになったし、普段からトラックやバスを運転している私の後輩は、最初から慣れた様子で運転していた。ワインディングをガンガン攻めたりしない限りは、早めの操作を心がけてさえいれば、普通に操縦できる。
高速域でのスタビリティーについては、高速型のエンジン特性から考えるよりも悪く感じた。やはりラダーフレームとボディの結合部のあたりで少しぐらついてしまっているため、高速になればなるほど車体がフラフラしてきてしまう。当然車輪の接地感にも乏しい。高速道路では追越車線をかなりのスピードで走っていくランドクルーザーを時々見かけるが、彼らには恐怖心というものがないのだろうか。
ここまで言ってしまうと、先進国の舗装路では、ラダーフレーム構造の尋常ではない耐久性によるメリットよりも、ドライバビリティの低下というデメリットの方が大きいような気もしてきてしまうのだが、ここはもう、ロマンという言葉で割り切ってしまうしかないだろう。ここまでの耐久性は必要がないなんてことを言い出してしまったら、フェラーリ488やポルシェ911WRXやシビックタイプRのような車だって、日本の一般道では、その性能を充分に出し切って走行することは、ほとんど不可能だ。ランドクルーザーは、世界の紛争地帯や、開発の最前線で、泥まみれ、砂まみれになりながら、時にはスコールを受け、銃弾を浴び、川を渡り、質の悪いガソリンを入れられ、知識のない整備士から、その場しのぎの適当な修理を受けながら、我々がのほほんとブログを読んでいる今現在も、力強く走り続けている。その車の血統を引く車を所有し、運転できるというところに、大きな価値がある。フェラーリやポルシェとは違うベクトルのオーバースペック。それこそがランドクルーザー一族を日本で購入する意義なのだろう。
今回は冬の下北半島を走行し、吹雪で時々ホワイトアウトしてしまうような環境でも乗ってみたのだが、舗装路である程度除雪がされており、圧雪や凍結の環境では、実は路面とタイヤの設置を感じ取ることが容易な、低重心の車の方が安心感が高いというのは、このブログでも時々言っている。シグナスも、やはり除雪された道では、不安感は普通の車とそれほど変わらず、むしろ重量が重く、ブレーキが効きづらいため、前の車との車間距離に、大変気を使って運転することになった。スタックしてしまうという心配はもちろん皆無なのだが、雪道ではスタックよりも気にかけなければならないことがたくさんある。

シグナスは生産終了からかなり時間が経過しているにも関わらず、中古市場では今だに高いプライスタグが掲げられている上に、燃料や税金などの維持費も半端ではない。長持ちはすると思うが、購入するにはそれなりの覚悟がいる車である。5人以上で乗るなら、ミニバンの方が快適だし、圧雪路や凍結路を走るなら、スバルの車の右に出るものはない。ヘビーデューティーな道を攻めたいのなら、70シリーズの方が適していそうだし、現行のランドクルーザーやレクサスLXよりもエンジンパワーが低い上に、重い車体のため、速く走れるわけでもない。乗り心地はあまり良くなく、運転にはある程度慣れが必要である。日本で乗るぶんには、こんなに頑丈である必要は無いと言ってしまえばそれまでだが、やはりこの車に乗ると、世界の果てに想いを馳せ、そこで働く日本車に対して、誇りを持たざるを得ない気持ちになってきてしまう。今の時代、なんでもかんでも日本製品が最も優れていると発言することは、まさに愚の骨頂ではあるが、ランドクルーザーに関しては、反論のしようがないくらい、これ以外では変わりがきかないという人がたくさんいる、優秀な製品であると言っても良い。本当に悪路走破性が高く、汎用性が高いのは、70の方かもしれないが、その血筋を引き、お金持ちのために快適さを加えたシグナス、あるいはレクサスLXに対して、激しい共感を覚える人であれば、とんでもない維持費を払うことも苦では無いだろう。
ちなみに、今回は、399キロ走り、ハイオクガソリンを66.4L給油し、燃費はリッター6キロで、コスモ石油に10025円支払うはめになった。一回の給油で1万円を超えたのは、さすがの私も人生で初めてのことだ。


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