ランドローバー・レンジローバーイヴォーク 試乗レビュー











ダッシュボードやセンターコンソールはシンプルなデザインで、それゆえに日本車やドイツ車とは異なる印象がある。着座位置はSUVとしては低め。前側の視界は悪くないが、ミラーが死角になってしまう場合があり、欧米人の体格に合わせて設計されている感じがする。
エンジンは2リッターターボエンジンだが、低速域では4気筒らしいコロコロというノイズを発生する。一方で高回転まで回すと比較的高めでスポーティーな音が聞こえてくる。4気筒エンジンでここまでいい音を出せることにとにかく驚いた。スポーティーなV6エンジンに匹敵するくらいの爽快感があるエンジン音と言える。トルク特性としては2千回転の少し前あたりからタービンの過給圧がかかってくる。ドッカンターボというほどではないが、もうすこし過給のしかたをマイルドにしてくれると、特に低速域で扱いやすくなると思う。3千回転あたりでのトルクのかかり方はさすがはダウンサイジングターボと言えるほど強力だが、5千回転付近から息切れしてしまう印象がある。音を聞くだけでも楽しいエンジンなので、そこはとても惜しい。ガソリンエンジンでもこういった特性なら、ディーゼルでも別にいいかなと思ってしまう。
トランスミッションであるZF製の9速トルクコンバータ式オートマチックは、もはや多段ギアボックスを超越した、超多段とも言える段数を誇っているため、もしかしたらほんの少しの速度変化に反応してギアチェンジしてしまったり、加速時もせわしなくタコメーターが動くのではないかと予想していたのだが、9速がかなりロング寄りの設定だったためか、日本の道路を走る速度域においてもそこまで違和感がなかった。また、時速100キロで巡航するときはエンジンメーターの回転数は1500回転前後を指し、エンジンをそれほど頑張らせなくても高速巡航ができるため、燃費面や、騒音という観点から言っても多段化されたギアボックスも良いものだと思わせてくれる。ここまで段数が多いと、トルクコンバータ式でもダイレクト感がある上に、本来のトルクコンバータ式の利点である、発進時のもたつきや違和感も少ない。近年特にプレミアムブランドを中心に、乾式のシーケンシャルギアボックスが少なくなりつつあり、代わりにZFやアイシンAWなどの多段ギアボックスを採用する動きが見られるが、スポーティーで、かつプレミアムな雰囲気を出せるのは、結局トルクコンバータ式の多段ATになるのかなと思う。パドルシフトを用いてシフトチェンジもできるが、シフトダウンの際は他のプレミアムブランドの車よりもショックが大きく、またシフトアップでは反応が遅い。これらが改善されれば、スポーティーさという面でもデュアルクラッチ式に対抗できるだろう。
ハンドリングは、とても良いというよりも、ハンドリングを中心として車の運転感覚の世界観が徹底的に構築されているという印象を受ける。街中を、低速で曲がったときですらハンドルからはセルフアライニングトルクとロードインフォメーションがひしひしと伝わってきており、車の骨格が強靭であることを意識させられる。ステアリングを回すと、エッジを立てるようにタイヤが地面を蹴り、サスペンションやタイヤなどがねじれたかのような感覚は一切見せることがない。ギア比もクイックで、SUVとは思えないほどソリッドなハンドリングを持っている。いい車に乗ると、ハンドルは切ったら切っただけ曲がるという表現をしたくなるが、この車はハンドルを切るとそれ以上に曲がるという印象だ。ピレリのマッドアンドスノーのグリップ力がすこぶる良いということも手伝って、バイト感は非常に高いため、峠道はとんでもなく早いスピードで駆け抜けることもできないことはないが、路面が濡れている場合などは何の前触れもなく突然アンダーステアが出てしまう場合もあり、そういうときはこの車の車両重量が1800キロを超えているということを思い出させる。だが総じて言えばこのハンドリング性能および感覚はSUVのものとはにわかに信じることができない。もはやスポーツカーやスポーティーセダンの領域に達していると言っても良い。ランドローバーはもともとSUVというよりも、クロスカントリーのブランドではあるが、そこにジャガーの血統を混ぜることによってこれだけスポーツカー然としたハンドリングをもたらすことができるものなのかと、素直に感心してしまった。ただ、クイックで、かつソリッドすぎるとも言えるハンドリングというのは、常日頃からスポーツカーに触れている人ならば良いのだが、この手の運転感覚に慣れていない人であれば怖いと感じてしまうだろう。
高速域でのスタビリティについては、日本では過剰性能であると言ってもいいだろう。高速道路の追越車線ペースでも全く問題ないどころか、自分が想像しているよりも速度がですぎてしまっている場合もあるくらいで、ハイスピードレンジにおける安心感はドイツの車と遜色ないレベルで高い。前述した通り、タイヤのバイト感が高いというのも要因だとは思うが、高速になればなるほど車体が地面に押し付けられ、段差を乗り越えた際なども足がよく動いており、常にアスファルトと密着しているため、背の高いSUVであるということをすっかり忘れてしまっていた。
乗り心地については、おそらくほとんどの人が硬いと感じることであろう。SUVといえば、おおらかで雄大な乗り心地を想像し、またそれを求めている人も多いとは思うが、イヴォークはそんな世界とは全く無関係である。ハーシュネスの動き出しは、段差の大きさによっては厳しいと感じることもままあった。しかしながら、サスペンションやボディーの剛性感がとんでもなく高いため、揺れを受け止めても次の瞬間にはすぐに収束し、車体がバウンドしたり、振動したりすることは全くないため、個人的にはとても好感が持てた。これもやはり、スポーツカーの乗り心地そのものであり、全体的な剛性の高さと、バランスの良さの結果である。ふわふわな乗り心地を求めている人のために作られた車ではそもそもないのであるということを思い知らされる。ロードノイズは、時速60キロ程度ではゴーーという低周波の音が比較的聞こえてくるが、タイヤの大きさゆえのものかと思う。風切り音はSUVとしては小さい方と言えそう。

見た目は四隅に大きなタイヤを装着した、SUVのコンセプトカーのような車であるが、運転感覚は全くSUVらしいところがなかったと言っても良い。スパルタンな乗り心地と引き換えに、刃物のように鋭いハンドリングとSUV離れした高速安定性能を手に入れたイヴォークは、もはやSUVという枠で捉えることができない車だ。これは、ランドローバーが開発したスポーツカーであり、SUVの再定義であり、もしかしたら、スポーツカーの再定義でもあるかもしれない。ワインディングを素早く走ることのできる車が大好きな私としては、危ういくらいにクイックに動くこの車は、大好きなSUVの1台に加わったのだが、かといって誰にでもお勧めできる車というわけでもない。実際、今回は私の知り合い2名にもこの車を運転してもらったのだが、そのうち一人はとても気に入っていたのに対し、もう一人は好きではないと言っていた。クイックでソリッドという特徴を際立たせた結果であるため、ランドローバーとしても賛否が分かれるのは当然のことだと認識しているだろう。イヴォークの世界観に共感でき、高価な購入価格を支払える人だけが、この車を所有する権利があるのかもしれない。他のプレミアムブランドであればセダンやハッチバックを用意した上で、さらにSUVを製造している。したがって、どうしても同じブランドのセダンなどと比較してしまった時に、SUVのドライバビリティのあらを探してしまったり、開発側で味付けに変化を持たせようというしてしまう意図を感じてしまうことがあるのだが、ご存知の通り、ランドローバーにはSUVしかない。つまり、SUVというカテゴリーの中でショーファードリブンからスポーツカーまで作れてしまうのがランドローバーの強みなのかもしれない。

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