トヨタ・カローラスポーツ 試乗レビュー











率直に言って、ここ最近のトヨタ車の中では、最もデザイン性に優れた車だと感じた。大きく開いた口などに近年のトヨタらしい意匠を感じるものの、フロントからリアにかけての一体感がとても美しい。特に私が気に入ったのはリアのデザインで、アルファロメオのジュリエッタを彷彿とさせんあがらも、トヨタらしく中心から伸びていくようなすっきりとしたデザインだ。キーンルックはこの車のためにあると言っても良いくらいだ。
アクセルをひと踏みして感じたことは、出足のタイヤのひと転がりが想像よりも軽やかだったということだった。というのも以前同じエンジンを搭載したCHRに乗車した際、1.2リッターエンジンのトルクのなさと、CVTのラバーバンドフィーリング、そしてタイヤの直径の大きさなどもあって、出だしのもたつきにかなりイライラしてしまったため、私の中でこのエンジンに対して期待値がものすごく下がっていた。とはいえ、全体的なパワー感で言えば日本のレギュラーガソリンで1.2リッターのダウンサイジングターボエンジンを動かすということは厳しいものがあるかもしれない。エンジンの伸び感という意味では、たしかに中速域から高速域まで一定に加速できるのだが、ちょっと伸びが緩やかすぎるというのが率直な感想だ。インプレッサの水平対向エンジンであれば最後のひと伸びがもっと気持ちよく決まるし、アクセラのディーゼルエンジンであれば強力なトルクにものを言わせることもできるため、パワートレインという点について言えば、燃費面も含めてライバルを凌駕できたとは言えないかもしれない。日本仕様だけ排気量を変更するというのは難しいことなのかもしれないが車格を考えると1.4リッターか1.5リッターのターボにしてくれたらほぼほぼ不満はないと思う。エンジンのフィーリングとしては、高回転まですっきりと回るため自然吸気のように扱いやすい。クセがなく、ターボラグも厳密に見ていけばないことはないのだが許せる範囲内だ。エンジン音も巡航レベルであればほとんど聞こえないのだが、アクセルを踏み込むとタービンが空気を吸い込むシュルシュルという音がよく聞こえるため、気になる人は気になるのかもしれない。CVTについてはかつてのものほどラバーバンドフィールは大きくなく、中高速域での速度調整もだいぶやりやすくなったのだが、例えば日産や三菱、スバルのCVTなどと比較するともう一歩といったところ。三菱のエクリプスクロスほど、マニュアルモードで変速した時のかっちり感は無いし、インプレッサほどアクセル操作のダイレクト感もない。燃費などを考慮すると仕方ない面もあるのかもしれないが、個人的にはこの車の性格を考えても、6速のトルクコンバータ式オートマチックあたりが一番適しているような気もしてしまう。しかしながら、マニュアルトランスミッションが選べるという点が、このカローラスポーツの一番の美点だろう。アクセラはMTが選べるが、いまやインプレッサではMTを選ぶことはできない。しかもこのご時世にMTのほうがCVTよりも32400円安いというのだから、かなり良心的だ。先述した通り、エンジンは絶対的なパワー感が足りないものの、すっきりとしていて回転フィーリングはすこぶる良い。オートマチック免許しか持っていないという若い人も多くなってきてはいるものの、もしカローラスポーツが欲しいと感じているのなら限定解除をしてでもMTに乗るべきだ。また、MTの車に乗りたいと考えているものの、ロードスターやS660じゃあ実用性がないし、カローラアクシオのようなあっさりした車だと物足りないと考えている人には、絶対にオススメできる一台だ。多少の遅さは、シフト操作で一生懸命に走ることでカバーしようとすれば、それ自体が運転の楽しさへと誘うスパイスとなるはずだ。しかも、クラッチやシフトの操作に合わせて、コンピュータがエンジンの回転数を自動制御するシステムもついているため、MTに慣れていない人でも充分楽しむことができるだろう。この車は、MTであやつるために生まれてきた車と言っても全く言い過ぎでは無い。
ワインディングに持ち込むと、15インチのエコタイヤの限界が早く、そこまでハンドルを切っていなくてもわりとすぐにタイヤが鳴き始めてしまう。ただ、ハンドルから伝わってくる剛性感は半端ではなく、プリウスはもとより、ハンドリング性能で名高い、アクセラですら凌駕するかっちり感がある。ボンネットやドア、屋根、エンジンなど、重心から遠い場所にあるものは軽く感じるのか、実際に軽いのかわからないがとにかくキビキビと車が向きを変えるのでコーナーを曲がっていくのが楽しくて仕方がない。ボディやシャシの剛性感もピカイチで、荷重移動もとってもやりやすい。もっとインチ数の大きいタイヤを装着し、ハイグリップのタイヤを履いたのなら、腕次第ではスポーツカーだって追い回すことができてしまうだろう。C-HRやプリウスと比較してもハンドリングはソリッドで、スポーツという名前にぴったりのキャラクターだと思った。タイヤのせいでコーナリングスピードはそれほど早くはなかったのだが、カーブの途中でアンジュレーションを受け止めても車が姿勢や向きを変えることもなく、安心感も高い。
高速道路では追越車線のペースでも全く不安を感じなかった。東北地方の高速道路のように、上下にうねりにうねりまくっていて、車が空中に浮いてしまうのではないかと思ってしまうような道でも、車輪は接地感を全く失わない。ただ先述した通り、エンジンのパワー感が乏しいため、ボディの剛性感が高いこともあって特に高速域ではエンジンが負けてしまっているという印象も拭えなかった。
乗り心地については道路が荒れているところなどでは一本芯を伴ったような揺れを感じることが多かった。スパルタンだとまでは言わないし、全体的な剛性感が高いため、安っぽい乗り味だというわけではないのだが、単純に乗り心地の良い車に乗りたいのであれば、プリウスやインプレッサ、アクセラあたりのほうが良いと感じることだろう。個人的にはスポーツセダンのようなかっちりとした乗り心地はむしろ好みだと言えるし、運転席に座っている限りはあまり気にならないため特段のウィークポイントだとは思わない。また、ロードノイズもどちらかと言えば大きく、エンジンが高回転まで回った時は振動が床やシートに少しだけ響いてきたのが気になった。最近のCセグメント車はどれも優秀なので、あくまでライバルと比較した時にそのような印象になってしまうという相対論の話である。

Cセグメントハッチバックといえば、フォルクスワーゲンゴルフやプジョー308、マツダアクセラやスバルインプレッサ、ホンダのシビックなど、枚挙にいとまがないほどライバルが存在する激戦区だ。そして激戦区だからこそメーカーの思想、力量、キャラクター、あるいはマーケティングがはっきりとわかる興味深くもあり、重要なカテゴリーである。これに対するトヨタの回答は、概ね車好きを満足させるものなのではないかと思う。実質的にはオーリスの後継車種なのだが、スポーティーなイメージを与えることで若返りを果たし、もう一度カローラを魅力的な存在へ昇華しようというトヨタの試みは車好きとして大いに歓迎したい。願わくは、まだ免許を持っていない多くの若い人たちが、カローラスポーツに注目することで車に興味を持ち、MT免許を取得する動機となり、この車のMTを手に入れた暁には運転ってこんなに楽しいんだ、車ってこんなにも人生を豊かにしてくれるものなのだと実感してくれたのならありがたい。カローラスポーツにはそんな偉業を達成することのできるポテンシャルが充分に備わっている。

給油量39.6L 走行距離509.4km 今回燃費12.9km/L


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https://www.youtube.com/watch?v=qqVPUsIHASo

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