トヨタ・新型クラウン 試乗レビュー







トヨタの車というものは、日本人に対してどうしてここまでの安心感を与えられるのであろうか。パネル一枚一枚の隙間の統一感から、しっかりと合わせこまれた内装部品を見ると、日本の車、とりわけトヨタの車造りに対する真面目さを伺うことができる。エクステリアは先代から比べるとグリルが大きくなり、これは昨今のトレンドに乗ったものであるが、クーペルックのスタイルと相まって全体的には精悍な印象が持たせられている。日本の道路事情に対応したのであろうが、横幅は案外狭い印象で、車全体で見れば欧州車やあるいは海外市場向けに設計された国産のセダンなどと比較しても、細身である。ここらへんのスタイリングは好みが分かれそうなところ。インテリアのデザインは外観から想像するよりもコンサバティヴだ。レザーも適切に配置されているほか、ボタンを押した時のクリック感が素晴らしく良い。視界もひらけており、大きな車の割には気を遣って運転する必要がない。後ろの視界はあまり良くないが、駐車の際などはバックモニターを使うと特に問題はなかった。
2.5リッターのダイナミックフォースエンジンと組み合わされたトヨタのハイブリッドシステムは、カムリに搭載されたものを縦置きにしたものを基本としているが、やはりカムリに乗った時と同様、高いドライバビリティを見せてくれた。走り出しがスムーズなのはもはや当然として、エンジンの音はかなり遠くから聞こえてくる感覚だ。中速域から高速域でのアクセルのレスポンスもトヨタのハイブリッドとしては非常に良い。プリウスやC-HR1.8リッターハイブリッドシステムもこれくらいのレスポンスがあったら良いとは感じるが、そちらはもうすぐ2リッターになるとのことなのでそのパワートレインの完成度に期待したい。200馬力以上を発生するシステムであるため、一般道で遅いと感じることはまずないのだが、シャシーやボディの剛性感が高いため、相対的に言えばパワートレインが負けてしまっているような印象がある。実は先代のクラウンに乗った際は2.5リッターの自然吸気エンジンがちょうど良いと思ったものだが、新型であれば3.5リッターが欲しいという欲が出てきてしまう。トヨタのハイブリッドシステムなので当然巡航時は静かだがアクセルを踏み込むと、前の席ではどこか前方の遠いところからエンジンの唸り声が聞こえてくる印象がある。音の質感も4気筒にしてはウェットで悪くはないのだが、やはり6気筒の時代が恋しいと思ってしまう人もいるかもしれない。一方で驚かされたのは後ろの席において聞こえるエンジン音、というよりも排気音といったほうが良いかもしれないが、まるでラクシュリーな6気筒エンジン車のようにきめ細かく、低音が強調された、眠りに誘うような心地よい音が聞こえてくる。外で聞こえる音のみならず、乗員に聞かせる排気音を持っているため、マフラーの設定はかなりこだわっているのではないかと思われる。乗り心地は路面の凹凸に対してあたりが柔らかく、角というものを全く感じない。シートのストローク感はもう少し欲しいというのが正直なところだが、日本人の体型にフィットしたシート形状はさすがは日本国内向けに作られた車だと感じる。後ろの席はホールド感があり、また窓も大きいため開放感もある。クーペルックな形状の割には、ヘッドクリアランスも大きく、座高の高い私としてはありがたい。足元の段差が大きく、乗り降りが先代に比べてしづらいのは難点ではあるが、全体的な乗り心地はかなり改善されており、ショーファーカーとしての役目を充分に果たすことができる。ただ、もうひとつだけ難点を言えば、これは本当に厳しすぎる範囲のことかもしれないが、タイヤの影響とおもわれる、路面状況によってはザラザラとしたフィーリングを、床やハンドルに伝えてきてしまうことがあった。個人的にはコンフォート系のタイヤを履かせて、それらの問題を解消したいところ。
ボディやシャシなど、車全体の一体感がとてつもないレベルで向上しているという点が、先代のクラウンと比較して最も大きく進化した点だと言える。先代ではハンドルの操作に対してどうしても車の動きがワンテンポ、いやツーテンポくらい遅れて反応する印象で、かなりのんびりとした車だと思った一方で、これもクラウンの味だといえるかもしれないと思ったものだが、新型はフィーリングがより自然で、ハンドルを切ると適度にロールしながら外輪に荷重をかけつつ、安心感をもってハンドルを切ることができた。タイヤのバイト感もかなり高く、限界も高いため、コーナリングスピードは先代とは比べ物にならないくらい早くなったし、操作していて楽だ。ハンドルセンターの曖昧だったところも改善され、セルフアライニングトルクの出方もちょうど良い。カムリに乗った時もそうだったが、カーブの途中でアンジュレーションを受け止めても、タイヤが接地を失うことはない。全体的にはスポーティーさが増したと感じるが、そこはやはりクラウンだけあって、ハンドリングがソリッドすぎるということはない。あくまで切ったら切っただけ、優しく切ったら優しく車が反応してくれる。ワインディングでは多少車の重さを感じてしまうこともあるが、このクラスの車としては、現状では非の打ち所がないと言えるくらいに進化している。
高速域でのスタビリティもやはりタイヤの接地感が増した影響でかなり進化している。日本の高速道路の追越車線のペースであればドイツの高級サルーンと比較しても全く遜色はない。ハンドルはピシッと手の中に収まり、ボディも堅牢そのもので、TNGAの恩恵をとても感じることができる。欲をいえば、高速域ではもう少しハンドルを重くするようなセッティングにしてくれたのなら、感覚的な直進安定性の高さをより感じることができるだろうと思う。

クラウンの良いところというのは高級車の中にあっても、控えめで主張しすぎないというところだと私は思っている。田舎だとよくあることだが、本当はメルセデスやBMWあたりが欲しいと思っていても、周囲の目が気になるため国産の高級車を所有している社長さんやお医者さんはたくさんいる。そういった人の中には当然クラウンに乗っている人も多いわけだが、今度のクラウンは欧州車志向の強い人でも走りに十分満足できるようなスポーティーさと乗り心地を兼ね備えることができた。では既存のクラウンファンが置き去りにされているのかと言われればそんなことは全くない。先代のクラウンはハンドリングや乗り心地などにどことなくゆるい感覚があり、一方で新型はそのようなゆるさとは決別した感があるが、それでもソリッドさはうまく抑えられており、国産車に乗り慣れているという人も違和感なく移行できるだろう。車としてレベルが向上したことは当然として、車のキャラクター付けも既存ユーザー、新規顧客双方が満足できるようになったという意味で、トヨタというメーカーの技術力の高さはさることながら、同時にマーケティングのセンスも天才的であるとつくづく感じるものだ。乗り心地やハンドリングなど、性能は満場一致で進化したと認められるだろうから、あとはこのデザインが市場に受け入れられるかどうかということに、今後のクラウンの方向性がかかっているだろう。しかしながら、ただでさえシュリンクしている日本の自動車市場の中で、さらに縮み上がっているセダンというカテゴリーを、本気で攻略しようとしているトヨタの姿勢は素直に認めるべきではないだろうか。今の時代、日本のためにセダンを作り上げた自動車メーカーなんて、いったい他にどこがあるというのだろうか。

給油量44.1L 走行距離517.1km 今回燃費11.7km/L


詳しい解説はこちらをご覧ください!
https://www.youtube.com/watch?v=bTVxPQntNxA&t=359s

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