プジョー308BlieHDi Allue 試乗レビュー
デザインはLEDのヘッドライトなど現代的な演出があるものの、基本的にはとてもシンプル。シンプルなデザインが多いイタリア車フランス車の中にあっても、かなりシンプルなほう。
後部座席は狭い。全長が短いためということもあるだろうが、今まで乗った、現代のCセグメントの中では最も狭いと感じる。
乗って一番最初に感じるのは、小さなハンドルの上側に、メーターを配置するという構造が、思ったよりも親しみやすいということだった。ハンドルの中を通してメーターを見る車が多いのだが、たしかに視線移動は多く、また場合によっては見辛いこともある。それを解消するには、ハンドルを小さくするしかないということは、ちょっと考えればわかることではあるが、本当にやってしまう勇気があるプジョーはすごい。シートの形状がもう少し良ければ、さらにフィットしたドライビングポジションが得られるとは思うが、この新たな感覚は、自動車の構造的な提案として、素晴らしいものがあると思う。ただ、タコメーターが左回転なのは最後まで慣れなかった。
エンジンは、今まで乗ったクリーンディーゼルの中で、最も気に入った。低回転からトルクが太いのは当たり前だが、レブリミットまでフラットにパワーが出る。回転にはディーゼル特有のもったりとした感覚もなく、非常に回りたがる性質を持つ。ターボラグはほとんど感じることはなく、もう少し高い回転数までまわれば文句はないが、フィーリングとしては最高の部類のディーゼルだと思う。振動はほとんどなく、外にいるとディーゼルらしいアイドリング音が聞こえるが、中にいるとガソリンと変わらない。それどころか、巡行レベルであれば、エンジン音が全く聞こえなくなってしまう。フランスは小型ディーゼル車の本場と言われるが、正直いままで侮っていたかもしれない。ディーゼルに乗っているというよりは、トルクがとんでもなく太い、ガソリンエンジン車に乗っているという感覚にさせてくれる。ここまでガソリンエンジンっぽいディーゼルは初めてだ。
トランスミッションはアイシンAW製のトルクコンバータ式6速だが、さすがにダイレクト感や変速スピードでは、フォルクスワーゲンのデュアルクラッチにはかなわない。今の時代、デュアルクラッチが絶対的に優れていると発言するのは、時代遅れなことだと思うが、トルクコンバータ式でダイレクト感を演出するには、8段くらいは必要だと感じる。また、許容回転数の少ないディーゼルを、特にワインディングなどでキビキビ走らせるには、より細かい段数が必要だ。意外と値段の安い車なので、ここにはあまりお金をかけられなかったのかもしれない。また、ファーストからセカンドにギアチェンジするときは、すこしギクシャク感があった。とはいえ、シフトアップのスピードは早く、パドルシフトは操作が楽しく、かつ便利だ。
アイドリングストップのマナーは本当に素晴らしい。セルの音は全く聞こえず、スルンとエンジンが始動し、振動もほとんど感じない。メルセデスやマツダで感じる、始動直後に、ターボラグのようなアクセルの遅れを感じることもないし、電光石火で再始動する。フォルクスワーゲンやメルセデスは、あまりアイドリングストップのマナーが良くないので、外国車はアイドリングストップが苦手なのかと思っていたが、プジョーのアイドリングストップは、今まで私が乗った、ディーゼルエンジンのアイドリングストップ車の中では、もっともマナーが良い。
ロードノイズは非常に小さく、風切り音も小さめといえる。
ハーシュネスは、大きな突き上げに対しては、ゴンと押し上げるような動きが垣間見られるものの、石畳のような場所を走っているときは、車体に振動がほとんど伝わって来ず、姿勢は常にフラットである。ボディー剛性はドイツ車並みに強く、それでいて足回りは、若干ではあるがドイツ車よりもしなやかで、フランスのごつごつした田舎道で鍛えられていることをうかがわせる。個人的には、ドイツの車の乗り心地は、ピシッとしまっていて悪くはないと思うが、これにしなやかさを加えたプジョーの乗り心地は絶品だ。ただ、かつて猫足と呼ばれた、ふわふわなフランス車の乗り心地はすでに存在せず、隣国ドイツの影響を少なからず受けているということも言っておかなければならない点の一つ。
ハンドリングに関しては、レベルが高い低いではなく、楽しいという言葉で表現したい。回頭性は非常によく、小さなハンドルをクイッと曲げると、車も瞬時に向きを変える。かといって、ソリッドすぎて怖いという印象は全くなく、少しのロールを伴いながら、華麗に、しなやかに曲がっていく。特にもスポーツモードにすると、ハンドルの重さが適度になり、ハンドリングに没頭できる。スポーツモードにしていないときは、ハンドルが軽い印象があるので、個人的には、スポーツモードではないときでも、スポーツモードのときのハンドルの重さにして欲しいと感じる。ボディーやシャシーもねじれ知らずで、車の荷重移動もとても把握しやすい。タイヤのバイト感もとても良く感じるため、ワインディングなどをきびきびとスピーディーに走っていても、運転者はもちろんのこと、同乗者まで安心しきってしまう。ハンドリングというのは、それ一つで、たくさんの要素を持った項目であるため、一概にどれが一番とは言えないものなのだが、個人的には、今まで乗ったハッチバックの車の中では、もっともハンドリングが良いと感じた。
スポーツモードにすると、ハンドルが適度に重くなり、アクセルのツキがよくなり、さらにダイレクト感も増す。また、スピーカーからエンジン音の演出がなされる。音はV8エンジンのような野太い音で、アメリカ人受けを狙ったのかなと思われるが、スポーツマインドを掻き立ててくれる。
高速域でのスタビリティーは、今回はあまり検証できなかったが、直進安定性はとても高いと感じた上に、剛性も高いため、長時間高速で走行するのは得意そうだと感じる。
今回は、ディーラー試乗だったため、見積もりも出してもらったが、本体価格299万円に対して、登録諸経費と、オイル交換や尿素補充を含めた3年間メンテナンスフリーパック、さらには5年ローンを含めても、支払総額は299万円のままであった。国産車は価格が上がり、輸入車は戦略的な価格を示す中、必ずしも国産がお買い得で、輸入車は割高という時代でもなくなってきた。
なんとなくではあるが、レベルの高い車であろうことは、いろいろな所から聞いていたので想像していたところではあった。しかし、まさか自分がここまで虜になってしまうとは思わなかった。日本車は視界が良く、乗り降りがしやすく、加速は滑らかで、親しみやすい車が多いが、親しみやすさで言えばプジョーは全く負けていないと感じた。それでいて、デザインはシンプルで飽きなさそうだし、ハンドリングやスタビリティーはとてもレベルが高く、ワインディングに持っていくととんでもなく楽しい世界が待っていた。
フランス車、特にプジョーは、近年ドイツ車化が進んでいると言われている。確かに、ドイツの車のようなかっちり感を、ステアリングやボディー、シャシーの作りからは感じるが、本質的に見て見るとやっぱり違う。ドイツの良いところを吸収しつつ、独自の世界観を演出できていると私は感じる。真面目なドイツ人の作る真面目なドイツ車もとても魅力的だ。だがよりシンプルなデザインや、しなやかな足回りなど、フランスの文化や風習を感じさせるプジョーは、私の中で最も好きなブランドの一つになった。それくらい、308が私に与えた衝撃は大きいものであった
詳しい解説はこちらをご覧ください!↓
https://www.youtube.com/watch?v=-fq9E1NmO_o&list=PLw0Odm5d5QLYSGkODlZom00J37El1FU-t&index=102
コメント
コメントを投稿