メルセデスベンツ・A180 試乗レビュー
フロンシートが硬い。また、ハンドルの高さや背もたれの角度など、なんとなくこれと言う位置が定まりづらい。結果として、長い間乗っていると腰が痛くなってしまった。
ボタンが多い。それ以外はインパネ周りの質感は申し分ない。ナビは使いづらいが、国産でも使いやすいものになんか滅多に出会わないので標準的と言える。
コラムシフトは正直嫌いだ。ハンドルからレバーが三つも四つも伸びているのは格好が悪い。
フロントの見切りは窓の縦幅が狭いわりには良いのだが、リアガラスもバックミラーも小さいため、後ろの視界は悪い。バックモニターは必須。
エンジンは4気筒らしいコロコロという唸り声を上げる時がある。アイドリングストップ復帰直後やアクセルオンオフ繰り返しではほんの少しではあるがターボラグを感じるし、高回転の伸びが悪いのもターボ車特有のもの。また、エンジンブレーキを使用する時に回転数が上がると、かなりけたたましい音が鳴る。しかし、近年のダウンサイジングターボらしく、低回転からトルクがガツンで出ており、楽しいエンジンだ。扱いやすいと言うわけではないが、車好きのツボをよく抑えてある。
トランスミッションは7速デュアルクラッチ。パドルシフトは付いているが、シフトアップはほとんど使うことはないと思う。パドルを引いてマニュアルモードにしても、レッドゾーンに入ると自動でシフトアップしてくれるし、しばらく操作していないと自動で戻る。エンジンブレーキが必要な時のみ、シフトダウン操作を行う使い方が一番いいと思う。パドルを使うと、必ず1段ずつギアを落とす形になるので、追い越しなどを行う場合には、パドルには何もせず、ただアクセルを目一杯踏み込むと、2段や3段一気にシフトダウンしてくれるので、そちらの方が早い。GLAでも感じたが、半クラッチなどの操作は絶妙で、ジャダーも全く出ないが、条件によってはシフトショックが大きくなることもあり、CVTなどに慣れてしまっている人にとっては、乗り心地が悪いと感じてしまうかもしれない。個人的には、ダイレクト感があって、好きなトランスミッションだが、もう少し、なんというか、うまく言えないが、機械を操作してる感が欲しかった。スズキやフォルクスワーゲンの自動クラッチはここら辺がうまいのだけれども、メルセデスのブランドイメージを考えたら、上質さの演出の方が優先されたのかもしれない。
国産車だと、車線をはみ出してしまった時に、電子音などでお知らせするシステムがあるが、この車はその場合、ハンドルが震えることで教えてくれる。これなら、同乗者を不安にさせることもないし、なにより、そのことが原因で運転が下手だと思われることもない。
アイドリングストップ機構は、始動時は国産車のアイドリングストップよりも振動が少し大きい程度だが、エンジン停止時のマナーが大変よろしくない。GLAではマナーが良かったのに、とても意外だ。車が前転でもするかのように、前側につんのめる。近年の国産車では、正直こんな動きは見られないし、2000ccのGLAでもみられなかった。ここは要改善と言える。
ロードノイズは音量自体は大きいのだが、音の角が取れていて、耳あたりがいい。このような処理の仕方は、日本車にはあまり見られないかもしれない。国産車の場合、ひたすら音を消すことにばかり躍起になっていることが多いのだが、車のスピードレンジが高いヨーロッパでは、静粛性のために操縦安定性が犠牲になることは許されない。ある意味では苦肉の策だと言えそうだが、エンジニアリングとしてはうまいと思う。
ハーシュネスは大きいが、つきあげた後で車はピシっと静まる。衝撃を受け止めても、どこかの剛性が失われるなどということは一切許さず、がっちりとした空間の中に身を預けているような安心感がある。実にヨーロッパ車らしい動き方をするが、メルセデスらしいかと言われれば疑問符がつく。メルセデスと言えば、ふわふわで極上な乗り心地を想像する人が未だに多いと思うのだが、実は最近のメルセデスは足回りなどがかなりスポーティーになってきており、逆にBMWはコンフォート寄りのセッティングとなっており、少し前のイメージとの逆転現象が起きているとのこと。特にもこのA180は若者向けということもあり、活発なイメージを演出したかったのだろう。
そのためか、ハンドリングは俊敏そのもの。アジリティという言葉を絵に描いたような車だ。ハンドルを曲げると鼻先を軽々とカーブの内側に突っ込み、リアもしっかりその手助けをする。シャシーやボディーがねじれる感覚は、リア側でほんの少しだけ感じるが、それでも国産車のそれもセダンですらこの剛性感に勝てている車は稀である。あまりにも軽々と動いてしまうので、よっぽど軽い車なのかと思いきや、1400キロ以上の車両重量で、むしろCセグメントとしてはかなり重い方だ。ただ、高速でコーナーを曲がっている最中に、路面からのアンジュレーションを受け止めると、リアが不自然な動きをすることがあり、この点において、最新型の国産車、例えばインプレッサやスイフトなどに負けている。プロドライバーなどが運転して早いのは間違い無くA180の方だが、ビギナーが安心して運転できるという意味においては、それらの車の方がよさそうだ。それにしても、山道を走るのが本当に楽しかったので、今回は交通量の少ないワインデイングロードをあえて選んで、エンジンを回しまくり、ハンドルをかなり切り込みながら走ってしまった。
スタビリティーは当然高い。さすがはアウトバーンの国で生まれた車だ。ハンドルセンターがこれよりも引き締まっている国産車は、このクラスでは他に思いつかないし、日本の道路レベルであれば当然ビクともしない。200km/hとか、そういうスピードレンジで走行してしまいたくなるほどの安心感と剛性感がある。
ただ、ドイツの車は大体どれもそうなので、ここが優れているからといって、あえてこの車を買うという理由にはならない。
A180を買う理由があるとすれば、それは、見た目、ブランド力、そしてハンドリングの3つ。デザインは好みがそれぞれあると思うが、最近の国産車、いや外車を含めてもここまでどっしりとしたデザインのCセグメントは無く、少なくとも唯一無二感はある。さらに、比較的安価に、日本国内で周知されているベンツというブランドを手に入れられる上に、ここまでハンドリングのアジリティを高めてある車も、このクラスではなかなか無い。BMWや、ミニですら、近年コンフォート寄りになっている昨今、多少の突き上げ感を許せるのなら、この車を選択する大きな理由になり得る。
プレミアムブランドの最廉価モデルというのは作るのが非常に難しい。ブランドの裾野を広げるという使命はあるものの、大きな開発費や製造費をかけることもできず、それを購入した人は、車で選んだわけでは無く、安価にそのブランドを手にしようとしたのではないかという目で見られかねず、そういった悪循環が、結果として、ブランドの価値そのものを毀損しかねない。世界に目を向けても、高級ブランドの最廉価モデルの中には、目も当てられない出来のものがたくさんある。実際、初代のAクラスなんかは、ただ単にベンツという車に乗りたい人が買うものだ、というレッテルを貼られていた。しかし、今回のA180は違う。若者向けと高いアジリティという圧倒的なキャラクターと、スポーティーな見た目によって、個性を獲得し、Cクラスでも無い、Eクラスでも無い、あえてAクラスを選ぶんだという理由が十分にある存在になっている。この車を購入する人は、もしかしたら、単にベンツが欲しかったというだけの人がいるかもしれない、いや、確実にいるはずだ。しかしそうだとしても、あえてAクラスを購入した人と見分けはつかない。したがって、そのブランドの最廉価だとしても恥ずかしく無い。メルセデスのブランド戦略は本当にうまいものだと感心してしまった。
この車、年収の高い仕事についた、若い男性に乗って欲しい。五人乗車も一応できるが、後ろの席はあまり居住性が良くないので、普段は二人で乗る、つまりデートのための車、格好をつけるための車として活用するのもありかもしれない。
詳しい解説はこちらをご覧ください!↓
https://www.youtube.com/watch?v=Zj-BlaKgSEI&t=232s
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